2018/08/21 04:00
第100回薬剤師国家試験|薬学理論問題 / 問123 Q. 平成20年に、数種の有害化学物質で汚染された事故米を食用の米と偽って転売する事件が起こった。この事例に見られるように、米は化学物質による汚染が比較的多い食品である。米を汚染する可能性が高い有害化学物質はどれか。
選択肢
1. ベンゾ〔a〕ピレン 2. アフラトキシンB1 3. パツリン 4. パラジクロロベンゼン 5. メタミドホス
(論点:食品の安全 化学物質による汚染)
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松廼屋|論点解説 薬剤師国家試験対策ノート問100-123【衛生】論点:食品の安全 化学物質による汚染6; メタミドホス
こんにちは!薬学生の皆さん。BLNtです。解説します。薬剤師国家試験の衛生から食品の安全を論点とした問題です。問100-123は、食品の安全の中でも化学物質による汚染が設問のテーマでした。この問題へのアプローチ方法を一緒に考えてみましょう。
設問の全文はこちらです。
-記-
問100-123
平成20年に、数種の有害化学物質で汚染された事故米を食用の米と偽って転売する事件が起こった。
この事例に見られるように、米は化学物質による汚染が比較的多い食品である。
米を汚染する可能性が高い有害化学物質はどれか。
選択肢
1. ベンゾ〔a〕ピレン 2. アフラトキシンB1 3. パツリン 4. パラジクロロベンゼン 5. メタミドホス
以上
読んだ通りの問であれば、汚染の可能性の高さ、つまり、汚染される確率、すなわち、検査で、その化学物質が食品から検出された回数から汚染頻度を推定する統計的アプローチが妥当と考えられる問題です。平成20年をはじめとする食品の化学物質汚染に関する違反事例を、少なくとも米に関して経年的に把握している必要があります。米以外にも、検査すべき食品は多種類に渡り、また、同時に、検査対象である有害化学物質や農薬等は数百種類存在します。これらすべての検出事例を数年に渡って統計的な確率を推定可能なまでに把握していることは、検疫所の検査担当官でなければ無理ですが、解法を考えてみます。
6つのテーマに分けて解説します。
はじめましょう。
テーマ6. メタミドホス|
解説します。
農林水産省|メタミドホスとは http://www.maff.go.jp/j/syouan/0801_gyoza/kihon.html によれば、メタミドホスは日本では農薬登録されていない有機リン系化合物ですが、殺虫剤として農薬登録している国もあり、有機リン系殺虫剤であるアセフェートが植物・動物体内で代謝されることによっても生成します。コリンエステラーゼ活性阻害作用を有し、ある程度以上経口摂取すると、胃けいれんやけいれん、下痢、吐き気、嘔吐などがみられるとの記載があります。食品安全委員会のメタミドホス評価書(2016(平成28)年 http://www.fsc.go.jp/fsciis/evaluationDocument/show/kya20160209501 )によると、急性毒性の見地からのメタミドホスのARfD(急性参照量;一日ここまで経口摂取しても健康に悪影響が出ない量)は3μg/kg体重/日です。一方、メタミドホスのADI(許容一日摂取量;毎日一生食べ続けても健康に悪影響がでない量)は0.56μg/kg体重/日です。体重が60kgであれば、慢性毒性の見地から、1日に摂取してよいメタミドホスの量は33.6μgと算定されます。上記参考資料によれば、メタミドホスの主な毒性は脳および赤血球のコリンエステラーゼ活性阻害です。発がん性・遺伝毒性は認められませんでした。
次に、食品を汚染する可能性について考えてみましょう。
国立医薬品食品衛生研究所|食品衛生関連情報ポータルサイト http://www.nihs.go.jp/hse/food-kkportal/index.html の検疫所関連情報から、輸入食品中の違反事例一覧H20-26を確認すると、メタミドホス関連の違反事例は45件認められ、その内訳は、図1に示した通り、食品としては、アボカド(23件)、人参ジュース(11件)、キノア(6件)、オクラ、小麦粉、ミックスベジタブル、そば、ゴマ(各1件)でした。以上のように、平成20年-平成26年の輸入食品中違反事例(7年間:8299レコード)の結果から、コメのメタミドホス違反事例は認められませんでした。したがって、ポジティブ制度導入後の輸入米では、メタミドホスは米を汚染する可能性が高い有害化学物質ではないと考えられます。
図1 厚生労働省が公開する輸入食品中の違反事例に基づくメタミドホス違反事例一覧(平成20-平成26)※まとめと作図:松廼屋|論点解説(第100回薬剤師国家試験 薬学理論問題 衛生 問123)より 出典:国立医薬品食品衛生研究所|食品衛生関連情報ポータルサイト http://www.nihs.go.jp/hse/food-kkportal/index.html
メタミドホスによる食品の汚染は、その毒性による被害の大きさから、化学物質による汚染に起因した食中毒事案として報道されることが多く、社会的なインパクトが高いのですが、上述のように、近年のコメでは違反事例が検出される可能性は低いと思われます。なお、国内で使用が禁止されている農薬であることから、国内では農薬として散布されることはないので、国産米での検出は、アセフェート由来のもの以外は、通常、残留が想定されません。残留農薬基準値検索システム|農薬等の基準値 / メタミドホス http://db.ffcr.or.jp/front/pesticide_detail?id=74900 によれば、米(玄米)、アボカド、およびにんじんのメタミドホスの残留基準値は、各0.01ppmです。
メタミドホスは、平成20年1月に、中国産冷凍ギョウザが原因と疑われる健康被害事例で、その原因物質として報道されました(農林水産省|中国産冷凍ギョウザが原因と疑われる健康被害事例等に関する情報 http://www.maff.go.jp/j/syouan/0801_gyoza/index.html 、厚生労働省|中国産冷凍餃子を原因とする薬物中毒事案について https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/shokuhin/kenkoukiki/china-gyoza/index.html )。平成18年のポジティブリスト制度導入に伴って、多数の農薬に関する残留農薬の一斉分析が食品検査の要求事項となり、2008(平成20)年は、残留農薬基準の制度がネガティブリスト制度からポジティブリスト制度に変換され2年経過した時期であり、食品衛生法に基づく食品における残留農薬の違反事例や回収などの新たな公開情報に対する消費者の関心が高い中、残留基準に適合させるためのシステムの整備が食品業界と政府によって、はかられつつあった時代です。この時代背景から、平成20年のメタミドホスをめぐる社会問題が発生したとも考えられます。
以上で、6つのテーマからの論点解説は完了です!
すでにテーマ1( https://matsunoya.thebase.in/blog/2018/08/14/170000 )で解説したように、平成20年9月の輸入米における事故米穀の不正規流通事案において、事故米穀となった主な汚染原因はメタミドホスでした。メタミドホスが基準値超過したこの米穀は平成15年に輸入したもので、その時点の食品衛生法にはメタミドホスに関する基準がなく適法に輸入したものの、ポジティブリスト制度の導入によって平成18年に基準が新設され、その後の検査により残留が確認されて事故米穀とされたものです。問100-123では、正解の1つとされましたが、これまでの解説で述べたように、メタミドホスは、他の選択肢と同様に、平成20年以降の近年の傾向において、コメを汚染する可能性が高い化学物質ではありません。
食品の安全を論点として化学物質による汚染をテーマとした設問は、多岐にわたり、完全攻略が難しい問題の一つです。
オススメの対策|
1. 食品安全委員会のファクトシートおよび評価書並びに農林水産省のリスクプロファイルシート等から基本的知識を得ておくこと
2. 検疫所の輸入食品の違反事例(統計データ)または、農林水産省や厚生労働省の近年の報道発表資料(http://www.maff.go.jp/j/press/index.html、https://www.mhlw.go.jp/stf/houdou/index.html)から社会的影響が重大な事案または検査値統計のトレンドにアンテナを伸ばしておくこと
3. 実用的な方法としては、SNSのTwitterやFacebookで、厚生労働省、農林水産省、環境省、食品安全委員会等の公式アカウントや、新聞社の健康、医療、科学関係のアカウントのニュースフィードをチェックすることも、社会的影響を量的、質的にスケーラブルに認識するうえで有効
4. 「薬剤師国家試験対策ノート」シリーズ / 走る!「衛生」の松廼屋|論点解説で、サクッと実力アップを図る
ポイント|
【A】は日本では【B】されていない【C】化合物である。【D】として【B】している国もあり、【C】農薬である【D】の【E】が植物・動物体内で代謝されることによっても生成する。【F】作用を有し、ある程度以上経口摂取すると、【G】がみられる。
平成20年9月の輸入米における【H】の不正規流通事案において、【H】となった主な汚染原因は【A】であり、一方、【A】は、平成20年1月の【I】が原因と疑われる健康被害事例でその原因物質と断定された。
【A】に汚染されている可能性が高い輸入食品は、平成20年から7年間の違反事例から、【J】であり、輸入米に【A】による汚染は確認されなかった。
A. メタミドホス
B. 農薬登録
C. 有機リン系
D. 殺虫剤
E. アセフェート
F. コリンエステラーゼ活性阻害
G. 胃けいれんやけいれん、下痢、吐き気、嘔吐
H. 事故米穀
I. 中国産冷凍ギョウザ
J. アボカド、にんじん等
(完。。。)
では、問題を解いてみましょう!すっきり、はっきりわかったら、合格です。
第100回薬剤師国家試験|薬学理論問題 / 問123 Q. 平成20年に、数種の有害化学物質で汚染された事故米を食用の米と偽って転売する事件が起こった。この事例に見られるように、米は化学物質による汚染が比較的多い食品である。米を汚染する可能性が高い有害化学物質はどれか。
選択肢
1. ベンゾ〔a〕ピレン 2. アフラトキシンB1 3. パツリン 4. パラジクロロベンゼン 5. メタミドホス
(論点:食品の安全 化学物質による汚染)
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以上。BLNtより。
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第98回薬剤師国家試験|薬学理論問題 / 問123 食品に由来する発がん物質に関する記述のうち、正しいのはどれか。
選択肢
1. 亜硝酸と二級アミンからのニトロソアミンの生成は、pHが7付近で最も起こりやすい。
2. サイカシンは、体内でβ-グルコシダーゼによって代謝されたのちメチルカチオンを生じる。
3. ベンゾ〔a〕ピレンは、食品の焦げた部分などに含まれる多環芳香族炭化水素の一種である。
4. タンパク質を加熱したときに生成するGlu-P-1は、エポキシ体に代謝されて変異原性を示す。
5. ジャガイモを揚げたときなどに生成するアクリルアミドは、ヘテロサイクリックアミンの一種である。
(論点:食品に由来する有害物質)>>
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■松廼屋|論点解説 薬剤師国家試験対策ノート
問98-123【衛生】論点:食品に由来する有害物質 1; ニトロソアミン|
問98-123【衛生】論点:食品に由来する有害物質 2; サイカシン|
問98-123【衛生】論点:食品に由来する有害物質 3; 多環芳香族炭化水素 / ベンゾ〔a〕ピレン|
問98-123【衛生】論点:食品に由来する有害物質 4; ヘテロサイクリクアミン / Glu-P-1|
問98-123【衛生】論点:食品に由来する有害物質 5; アクリルアミド|
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第102回薬剤師国家試験|薬学理論問題 / 問122 食品表示法に基づく食品表示に関する記述のうち、正しいのはどれか。
選択肢
1. n-3系脂肪酸、ビタミンK及びカリウムは、栄養機能食品の栄養成分として栄養機能表示が認められている。
2. 特定保健用食品において、疾病リスク低減表示が認められている関与成分には、葉酸、カルシウム及びヘム鉄がある。
3. 機能性表示食品では、科学的根拠を有する関与成分について、企業の責任において疾病リスク低減表示が認められている。
4. 食品に含まれるナトリウムは、食塩相当量ではなく、ナトリウム量として表示する。
5. 特定原材料又はL-フェニルアラニン化合物を含む加工食品では、表示可能面積が小さくても、これを含む旨の表示を省略してはいけない。
(論点:食品表示法 食品表示)>>
■ 松廼屋|論点解説 薬剤師国家試験対策ノート
問102-122【衛生】論点:食品表示法 1; 栄養機能食品|
問102-122【衛生】論点:食品表示法 2; 特定保健用食品|
問102-122【衛生】論点:食品表示法 3; 機能性表示食品|
問102-122【衛生】論点:食品表示法 4; 栄養成分表示|
問102-122【衛生】論点:食品表示法 5; 食品表示基準に係る通知 / アレルゲン・L-フェニルアラニン|
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第103回薬剤師国家試験|必須問題 / 問20 業務上疾病のうち、疾病者数が最も多いのはどれか。
1. レイノー病 2. 胆管がん 3. 酸素欠乏症 4. 潜函病 5. 災害性腰痛(論点:職業病 安全衛生関係統計・災害事例)>>
■松廼屋|論点解説 薬剤師国家試験対策ノート
問103-20【衛生】論点:職業病 1; 業種別・疾病別 / 業務上疾病の疾病者数|
問103-20【衛生】論点:職業病 2; 業務上疾病 / 職業性腰痛の最近の動向|
問103-20【衛生】論点:職業病 3; 業務上疾病 / その他の職業病|
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走る!「衛生」Twitter Ver. 食品の安全 化学物質による汚染|薬剤師国家試験対策ノート
走る!「衛生」Twitter Ver. 食中毒|薬剤師国家試験対策ノート
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