2019/08/02 16:00
第97回薬剤師国家試験|薬学理論問題 / 問126 Q. ある集団を対象に生活習慣と癌の罹患状況をある一時点で同時に調査し、喫煙者では喉頭癌の有病率が高いという結果を得た。〔 〕に入れるべき語句の正しい組合せはどれか。
この研究は〔 a 〕であり、その結果からは、〔 b 〕。
|a |b
1. 横断的研究|喫煙は喉頭癌の危険因子であることがわかる
2. 横断的研究|喉頭癌患者は喫煙を好むことがわかる
3. 横断的研究|喫煙と喉頭癌の因果関係は不明である
4. 縦断的研究|喫煙は喉頭癌の危険因子であることがわかる
5. 縦断的研究|喉頭癌患者は喫煙を好むことがわかる
6. 縦断的研究|喫煙と喉頭癌の因果関係は不明である
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松廼屋|論点解説 薬剤師国家試験対策ノート問97-126【衛生】論点:疫学研究 / 観察研究
こんにちは!薬学生の皆さん。BLNtです。解説します。薬剤師国家試験の衛生から、疫学研究を論点とした問題です。第97回薬剤師国家試験【衛生】薬学理論問題の問126(問97-126|論点:疫学研究 / 観察研究)では、疫学研究の分類およびそれぞれの疫学研究の特徴の理解を問われました。選択肢から〔 〕に入れるべき語句を選ぶ薬学理論問題でした。
問97-126を解説します。苦手意識がある人も、この機会に疫学研究の基礎を一緒に完全攻略しましょう!
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2019/08/02 16:00 公開 https://matsunoya.thebase.in/blog/2019/08/02/160000
目次|
1|介入研究と観察研究
2|観察研究における交絡因子
3|横断研究、症例対照研究、コホート研究
4|因果関係
5|有病率と罹患率
1|介入研究と観察研究
解説します。疫学研究の分類に関しては、CORE Journal循環器online|EBM用語集 http://www.lifescience.co.jp/core_j_circ/glossary/index.php 、「か」の項目、介入研究、観察研究によれば、疫学研究の分類として、介入研究と観察研究という分類があります。介入研究は、治療や薬物投与などの介入が計画的に行われる研究です。あらかじめ治験に関する計画書などが作成されたのち、計画書に書かれた通りの治療や薬物投与などの介入を行い、試験結果を考察します。それに対して、観察研究は、条件・要因を人為的に変化させない研究です。観察研究の代表的なものとして、横断研究、症例対照研究、コホート研究があげられます。
2|観察研究における交絡因子
観察研究は、介入研究と異なり、要因をランダムに割付けできないため、バイアスや交絡因子が入り込みやすい特徴があります。上記、EBM用語集「か」の項目、「交絡因子」によれば、例えば、心筋梗塞(観察事象)との関係を検討する際、仮にコーヒー好きな人に喫煙者(交絡因子)が多い場合、コーヒー好き(要因)が心筋梗塞(観察事象)と関連すると誤認されるおそれがあります。交絡因子とは、研究対象の要因(例:コーヒー好き)と観察事象(例:心筋梗塞)の真の関係性を歪める別の因子のことです。交絡因子(喫煙)と要因(コーヒー好き)との関連があることによって、要因(コーヒー好き)がアウトカム(転帰|あるいは観察事象 / 心筋梗塞)と関連すると誤認されます。日本疫学会HP|疫学用語の基礎知識>索引>交絡バイアス 交絡因子 http://glossary.jeaweb.jp/glossary014.html によれば、交絡バイアスは、交絡因子の存在によって生じます。交絡因子と思われる要因(例:喫煙)が、1)アウトカム(例えば、心筋梗塞の発生)に影響を与える、2)要因(例:コーヒー好き)と関連がある、3)要因(例:コーヒー好き)とアウトカム(例:心筋梗塞の発生)の中間因子でない、という3つの条件を満たすと、交絡因子であると言うことができます。また、交絡因子(例:喫煙)が、要因(例:コーヒー好き)とアウトカム(転帰|あるいは観察事象 /例:心筋梗塞の発生)の双方に関連し、片方の集団(例:コーヒー好き)に偏って存在する場合は、要因があるかないかの2つの集団のアウトカムを比較する際に、交絡バイアスを生じます。以上、観察研究で、解析を行うとき注意する必要がある交絡因子について学びました。
3|横断研究、症例対照研究、コホート研究
観察研究の分類について解説します。日本疫学会HP>疫学用語の基礎知識 目次 http://glossary.jeaweb.jp/index.html 、横断研究と生態学的研究 http://glossary.jeaweb.jp/glossary004.htmlを参考として引用します。観察研究のひとつである横断研究では、集団の「ある一時点」での疾病(健康障害)の有無と要因の保有状況を同時に(横断的に)調査します。その調査結果から疾病と要因との関連を明らかにする方法です。疾病と要因との関連を評価するため、罹患率でなく、一時点でのその集団の「有病率」が用いられます。横断研究の利点と欠点が、上記参考資料の表1に示されています。「表1横断研究の利点と欠点」によれば、横断研究の利点としては、研究時間が短い、調査が容易、多くの対象者に対し、多要因に関する調査が可能であること、経済的であることがあります。一方、欠点としては、疾病と要因の時間的な前後関係が不明であるため、因果関係の推測が困難であること、慢性疾患では疾病罹患前の要因ではなく、疾病罹患により変化した要因との関連性を検討している可能性があること、研究対象要因が必ずしも真の要因ではなく、それと関連する他の要因が真の要因となることもあること、があります。
以上の横断研究の定義および横断研究の利点と欠点について把握してから、問97-126の〔 a 〕を選択してみましょう。
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Q. ある集団を対象に生活習慣と癌の罹患状況をある一時点で同時に調査し、喫煙者では喉頭癌の有病率が高いという結果を得た。〔 〕に入れるべき語句の正しい組合せはどれか。
この研究は〔 a 〕であり、その結果からは、〔 b 〕。
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この疫学研究は、ある一時点で疾病(癌 / 咽頭がんなど)の有無と要因(生活習慣 / 喫煙など)を同時に調査し、要因(喫煙)と疾病(咽頭がん)の関連を評価するため、「有病率」が用いられました。この疫学研究は、観察研究の横断研究ですね。
なお、日本疫学会HP>疫学用語の基礎知識 目次 http://glossary.jeaweb.jp/index.html 、コホート研究 http://glossary.jeaweb.jp/glossary006.html によれば、罹患率を算出して因果関係を調査する疫学研究の観察研究に、コホート研究があります。コホート研究は、調査時点で、要因を持つ集団(曝露群)と要因を持たない集団(非曝露群)を追跡しはじめ、一定期間の追跡の後、両群の疾病の罹患率(または死亡率)を比較する方法です。どのような要因を持つ者が、どのような疾病に罹患しやすいかを究明し、かつ因果関係の推定を行うことを目的とします。要因へ曝露した集団と曝露していない集団のそれぞれの共通要因を持つ集団をコホートといいます。これらのコホート(それぞれの共通する要因を持つ人たちの集団)がある転帰(アウトカム / 例:咽頭がんを発症する)を示すか追跡する研究です。コホート研究が症例対照研究と異なる点は、要因を持つ集団に対して転帰を示すまで追跡するという時系列の前後関係が成立するので、要因暴露とアウトカム(転帰)との因果関係の推定を行うことができること、および要因別の母集団(コホート)の罹患率(例:喫煙がある場合とない場合のそれぞれの咽頭がんの罹患率)およびその比率または差分である相対危険度・寄与危険度が算出できることがあげられます。
他方、日本疫学会HP>疫学用語の基礎知識 目次 http://glossary.jeaweb.jp/index.html 、症例対照研究 http://glossary.jeaweb.jp/glossary005.html によれば、疫学研究の観察研究の一種である症例対照研究とは、疾病の原因を過去にさかのぼって探索する研究です。現時点で過去にさかのぼり、目的とする疾病(例えば、咽頭がん)の患者集団(症例)とその疾病に罹患したことのない人の集団(対照)を選択し、要因(例:喫煙)に曝露された人の割合を症例と対照の両群で比較します。症例対照研究の欠点としては、症例と対照とに母集団からのサンプリングが分かれているので、要因(例:喫煙)の有無で分けた集団のそれぞれの要因別罹患率が算出できないこと、さらに、罹患率の比または差分から求める相対危険度または寄与危険度を直接計算できない側面があり、オッズ比で近似することがあげられます。要件として、疾病の頻度が低いこと、症例群が母集団の全患者を代表する場合、対照群が母集団を代表する場合を満たすと、オッズ比(≃相対危険の近似値)から因果関係の推定が可能です。
4|因果関係
因果関係について、解説します。日本疫学会HP>疫学用語の基礎知識 目次 http://glossary.jeaweb.jp/index.html から、因果関係 http://glossary.jeaweb.jp/glossary015.html を参考として引用します。因果関係とは、「原因とそれによって生じる結果との関係」(広辞苑、第6版)です。要因(例:喫煙)とアウトカム(転帰|例:疾病「咽頭がん」)の間において、関連はみられるが要因が結果を導く関係(真の因果関係)になっていないこともあり、その判断には注意が必要です。問97-126の設問の「喫煙者では喉頭癌の有病率が高い」という例について考えてみます。疫学調査の結果について「喉頭がんの原因は喫煙である」という因果関係を判断するためには、確認すべき点がいくつかあります。チェックリストのチェック欄( )にチェックを入れてください。
チェック欄|
( )関連の時間性|咽頭がん罹患というアウトカム(転帰)が、喫煙という要因の後におこる。
( )関連の一致性|喫煙と咽頭がん罹患との関連を示した研究デザインの異なる複数の研究で結果が一致する場合、偶然誤差・交絡バイアスの可能性が少なくなる。
( )関連の強さ|喫煙と咽頭がんとの関連が強いほど、相対危険またはオッズ比が1から離れ、偶然誤差・交絡バイアスの可能性が少なくなる。
( )量-反応関係|たまに喫煙をする人より、頻繁に喫煙をする人の方が、より、咽頭がんに罹患する場合、因果関係を示す積極的な証拠になる。
( )生物学的妥当性|タバコの成分が、咽頭がんへの罹患を助長する実験データ・動物実験と、疫学研究の調査結果が一致すれば、因果関係がさらに強くなる。
問97-126の設問と選択肢(b)を確認してみましょう。
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Q. ある集団を対象に生活習慣と癌の罹患状況をある一時点で同時に調査し、喫煙者では喉頭癌の有病率が高いという結果を得た。〔 〕に入れるべき語句の正しい組合せはどれか。
b|
喫煙は喉頭癌の危険因子であることがわかる
喉頭癌患者は喫煙を好むことがわかる
喫煙と喉頭癌の因果関係は不明である
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正答が導き出せましたか?
わかりにくいのは、喫煙者の喉頭がんの有病率(咽頭がん患者/喫煙者)と非喫煙者の喉頭がんの有病率(咽頭がん患者/非喫煙者)とを比較することと、咽頭がん患者の喫煙の割合(咽頭がん患者の喫煙/咽頭がん患者)と健常人の喫煙の割合(喫煙/健常人)とを比較することの違いです。分母と分子が違いますね。喉頭がん患者が喫煙を好むことがわかるのは、後者の比較からです。
5|有病率と罹患率
有病率および罹患率について、解説します。日本疫学会HP>疫学用語の基礎知識 目次 http://glossary.jeaweb.jp/index.html、有病率と罹患率 http://glossary.jeaweb.jp/glossary016.html を参考として引用します。有病率とは、ある一時点においての、その集団において疾病を有している人の割合です。その集団の特定の時点での健康問題の大きさを調査して対策を立てるなど、行政面で有用な指標です。横断研究では、その集団の中での、その時点の有病率と要因の有無の関係から、オッズ比を求めます。
有病率=(集団のある一時点における疾病を有する人の数)÷(集団の調査対象全ての人の数) …(1)
一方、罹患率は、一定期間にどれだけの疾病(健康障害)者が発生したかを示す指標です。発生率の一種ですが、罹患率が上がった場合、発生要因がある場合が多いので、罹患率はアウトカム(転帰|疾病)とその要因との因果関係を研究する場合に有用な指標です。
罹患率=(一定の観察期間に罹患した患者数)÷(危険暴露人口のひとりひとりの観察期間の総和|人-年法) …(2)
ただし、ここで、危険曝露人口とは、疾病に罹患する危険性を持った集団のことです。例)子宮がんの場合は女性、はしかの場合ははしかの既往歴がない者など。
追跡期間中に対象者が転出、死亡、拒否などで観察集団から脱落することによる追跡バイアスが生じるため、罹患率の分母に、観察された対象者と各対象者についての観察期間を同時に考慮に入れた、人-年が用いられます。
追記|
問97-126は、疫学研究の分類の観察研究と介入研究との違い、そして、観察研究の分類の、横断研究、症例対照研究およびコホート研究の違い・特徴を理解していることを求める問題でした。薬剤師国家試験の衛生では、疫学研究を論点とする過去問題が多数出題されています。合わせてチャレンジしておくとよいです。下記の松廼屋|論点解説 薬剤師国家試験対策ノートを公開中です。
松廼屋|論点解説 薬剤師国家試験対策ノート
第102回薬剤師国家試験 問125
疫学研究 1. コホート研究
疫学研究 2. 寄与危険度
疫学研究 3. 相対危険度
疫学研究 4. 交絡因子
第102回薬剤師国家試験 問126
疫学研究 症例対照研究
第103回薬剤師国家試験 問127
疫学研究 コホート研究1
疫学研究 コホート研究2
YouTube|※論点解説動画で予習・復習ができます。
YouTube再生リスト|走る!「衛生」論点:疫学研究 https://www.youtube.com/playlist?list=PLuPATLvMiAKo-AK1Nd68wEEuRF_I63H35
※再生リストから順番に連続してご覧いただくことができます。
走る!「衛生」Twitter Ver. 疫学研究/第97回-問126|薬剤師国家試験対策ノート
ポイント|
【A】には、【B】と【C】とがあり、【B】とは、特定の【D】などの【E】が行われる研究のことで、他方、【C】とは、研究の対象集団を設定し、条件・要因に対して人為的に【E】しない研究のことである。【C】の特徴として、研究要因を【F】ため、【B】と比較して、【G】が入り込みやすい側面がある。【C】の代表的な研究は、【H】、【I】、【J】である。【I】とは、疾病の原因を過去にさかのぼって探索する研究で、目的とする疾病の【K】と【L】とを選び、要因曝露された人の割合を、【K】と【L】の両群で比較する。【I】は、要因別の集団の【N】が算出できないので、【N】の比または差分から求める【O】または【P】を直接計算できない側面があり、【M】から【W】を行う。また、【C】の一つである【H】とは、疾病(健康障害)の有無と要因の保有状況を特定の集団の一時点で調査し、関連を明らかにする方法で、要因と疾病の関連の評価指標は、【N】でなく【Q】と呼ばれる。【H】は、研究期間が短く経済的で、多くの対象者に対して多要因に関する調査が可能であるといった長所があるが、疾病と要因の【R】が不明であるため、【W】が困難である。【H】では、その集団の中での、その時点の【Q】と要因の有り無しの関係から【M】を求める。一方、【J】は、調査時点で【S】と【T】を追跡し、【S】と【T】の両群の疾病のアウトカム(【N】または【U】)を比較する方法である。【V】がある転帰(アウトカム)を示すか追跡する。【J】が【I】と異なる点は、疾病と要因の【R】が成立するので【W】を行うことができること、および要因別【V】の【N】と【O】・【P】が算出できることがあげられる。【J】は、【S】が、疾病に罹患しやすいかを究明し、かつ【W】を行うことを目的とする。一方、【H】の【Q】には、【R】がないため、【W】をすることができない。
A. 疫学研究
B. 介入研究
C. 観察研究
D. 検査・治療、薬物投与
E. 介入
F. ランダムに割付けできない
G. バイアス・交絡因子
H. 横断研究
I. 症例対照研究
J. コホート研究
K. 罹患集団(症例)
L. 非罹患集団(対照)
M. オッズ比(相対危険の近似値)
N. 罹患率
O. 相対危険度
P. 寄与危険度
Q. 有病率
R. 時間的な前後関係
S. 要因を持つ集団(曝露群)
T. 要因を持たない集団(非曝露群)
U. 死亡率
V. コホート(それぞれの共通する要因を持つ人たちの集団)
W. 因果関係の推定
では、もう一度、問97-126を解いてみてください。すっきり、はっきりわかれば、合格です!
第97回薬剤師国家試験|薬学理論問題 / 問126 Q. ある集団を対象に生活習慣と癌の罹患状況をある一時点で同時に調査し、喫煙者では喉頭癌の有病率が高いという結果を得た。〔 〕に入れるべき語句の正しい組合せはどれか。
この研究は〔 a 〕であり、その結果からは、〔 b 〕。
|a |b
1. 横断的研究|喫煙は喉頭癌の危険因子であることがわかる
2. 横断的研究|喉頭癌患者は喫煙を好むことがわかる
3. 横断的研究|喫煙と喉頭癌の因果関係は不明である
4. 縦断的研究|喫煙は喉頭癌の危険因子であることがわかる
5. 縦断的研究|喉頭癌患者は喫煙を好むことがわかる
6. 縦断的研究|喫煙と喉頭癌の因果関係は不明である
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更新日:2019.08.02制作:滝沢幸穂(Yukiho.Takizawa)phD ■Facebook プロフィール https://www.facebook.com/Yukiho.Takizawa
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