2018/11/07 06:15

第103回薬剤師国家試験|薬学理論問題 / 問127 Q. 表は、福岡県の久山町研究において65歳以上の住民826名を15年間追跡し、65歳の時点での高血圧と耐糖能異常が、その後の脳血管性認知症とアルツハイマー病の発症に及ぼす影響について調べたものである。この結果から導き出される結論として誤っているのはどれか。

選択肢
1. 耐糖能異常は、単独でアルツハイマー病の危険因子となる。
2. 耐糖能異常がない場合、高血圧はアルツハイマー病を抑制する因子となる。
3. 高血圧及び耐糖能異常は、いずれも単独で脳血管性認知症の危険因子となる。
4. 脳血管性認知症は高血圧の危険因子となる。
5. 高血圧はアルツハイマー病に対する耐糖能異常の影響を解析する上で、交絡因子となる。
(論点:疫学研究 コホート研究)
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松廼屋|論点解説 薬剤師国家試験対策ノート問103-127【衛生】論点:疫学研究 コホート研究2

こんにちは!薬学生の皆さん。BLNtです。解説します。薬剤師国家試験の衛生から疫学研究を論点とした問題です。第103回薬剤師国家試験問127(問103-127)は、疫学研究からコホート研究の指標である相対危険度および交絡因子に関する理解を問われました。論点が疫学研究である類題に、下記の過去問題があります。
第 97回薬剤師国家試験|薬学理論問題 / 問126|観察研究 / 横断研究
第 97回薬剤師国家試験|薬学理論問題 / 問127|観察研究 / コホート研究
第 98回薬剤師国家試験|薬学理論問題 / 問 19|観察研究 / コホート研究
第 98回薬剤師国家試験|薬学理論問題 / 問126|観察研究 / 横断研究
第 99回薬剤師国家試験|薬学理論問題 / 問127|観察研究 / コホート研究
第100回薬剤師国家試験|薬学理論問題 / 問126|観察研究 / オッズ比
第101回薬剤師国家試験|薬学理論問題 / 問127|観察研究 / 記述疫学
第101回薬剤師国家試験|薬学理論問題 / 問128|観察研究 / コホート研究
第102回薬剤師国家試験|薬学理論問題 / 問125|観察研究 / コホート研究
第102回薬剤師国家試験|薬学理論問題 / 問126|観察研究 / 症例対照研究
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疫学研究に関する最新の詳細な参考資料としては、日本疫学会のホームページ(HP)「日本疫学会|疫学用語の基礎知識>索引 http://glossary.jeaweb.jp/index/index.html」およびCORE Journal循環器onlineのHP「CORE Journal循環器online|EBM用語集 http://www.lifescience.co.jp/core_j_circ/glossary/index.php」に科学的かつ目的に合った情報が記載されていますので、一読することをお勧めします。情報がわかり易く整理してありました。詳細は、上記、HPをご参照ください。上記、日本疫学会HP(疫学用語の基礎知識>索引>コホート研究 http://glossary.jeaweb.jp/glossary006.html)によれば、コホート研究の指標として、罹患率、相対危険度(RR)、寄与危険度(AR)および寄与危険割合(PAR)があります。RRはリスク比、ARはリスク差、PARは要因が真にリスク(罹患)に影響した患者の割合です。コホート研究が症例対照研究と異なる点は、要因を持つ集団に対して転帰を示すまで追跡するという時系列の前後関係が成立するので因果関係の推定を行うことができること、および要因別の母集団(コホート)の罹患率(例:脳血管性認知症およびアルツハイマー病の発生率)ならびに、罹患率の、それぞれ、比および差から求める指標であるRR・ARが算出できることがあげられます。コホート研究は、要因を持つ者が疾病に罹患しやすいかを究明し、かつ因果関係の推定を行うことを目的として行う研究です。例えば、65歳以上の住民826名を15年間追跡し、それぞれのコホート(要因暴露群と要因非暴露群)のアウトカム(例:脳血管性認知症およびアルツハイマー病の発生率)を得て、RR(疫学の要因分析で重要な指標)およびAR(公衆衛生対策で重要な指標)を算出します。RRを算出することにより、脳血管性認知症およびアルツハイマー病の発症要因として高血圧・耐糖能異常が関連するかの推察が可能になります。また、ARを算出することにより、集団に対する高血圧・耐糖能異常を予防することによる効果が期待される疾病として脳血管性認知症およびアルツハイマー病があるのか推測が可能になります。
問103-127を、選択肢ごとに解説します。第1回目は、選択肢1-選択肢4について解説しました( https://matsunoya.thebase.in/blog/2018/11/06/160000 )。第2回目は、選択肢5について解説します( https://matsunoya.thebase.in/blog/2018/11/07/061500 )。

選択肢5. 論点:コホート研究 / 交絡因子
Q. 5. 高血圧はアルツハイマー病に対する耐糖能異常の影響を解析する上で、交絡因子となる。A.【正|誤】|


解説します。第103回薬剤師国家試験問127、選択肢5(問103-127-5)は、論点「疫学研究」のうち、交絡因子をテーマとした正誤問題でした。上記、日本疫学会HP(疫学用語の基礎知識>索引>交絡バイアス 交絡因子 http://glossary.jeaweb.jp/glossary014.html)によれば、交絡バイアスは、交絡因子の存在によって生じます。交絡因子と思われる要因(例えば、高血圧)が、1)アウトカム(例えばアルツハイマー病の発生)に影響を与える、2)要因(例えば耐糖能異常)と関連がある、3)要因(例えば耐糖能異常)とアウトカム(例えばアルツハイマー病の発生)の中間因子でない、という3つの条件を満たすと、交絡因子であると言うことができます。また、交絡因子と思われる要因(例えば、高血圧)が、要因(例えば耐糖能異常)とアウトカム(例えばアルツハイマー病の発生)の双方に関連し、片方の集団である要因あり(耐糖能異常)に偏って存在する場合は、2つの集団のアウトカム(例えばアルツハイマー病の発生)を比較する際に、交絡バイアスを生じます。

要件の適合性を検討してみます。第1に、高血圧単独では、アルツハイマー病の相対危険度は0.9で有意差なしですから、「アウトカムに影響を与えるとは言えない」ため、要件(1)アウトカムに影響を与えるが「-」になります。また、第2に、要因(例えば耐糖能異常)と関連があるかどうかは高血圧の有無を要因とした耐糖能異常の罹患率の疫学分析の結果がありませんから、要件(2) 要因(例えば耐糖能異常)と関連がある、に関しては「不明」です。そして、第3に要件(3)要因(例えば耐糖能異常)とアウトカム(例えばアルツハイマー病の発生)の中間因子でない、に関しては、一般論として、耐糖能異常から高血圧に至り、アルツハイマー病が発症するというスキームについて現在オーソライズされている事実はありません。しかし、設問の表のみでは「不明」といえます。他方、アルツハイマー症の発症における相対危険度を、耐糖能異常単独と、耐糖能異常と高血圧との併発と比較をすると、それぞれ、4.6と2.3なので、関連の強さとしては、耐糖能単独のほうが耐糖能異常と高血圧との併発よりもアルツハイマー病の発症との関連の度合いが強い傾向が示唆されます。交絡因子の定義に関しては、詳しくは、上記、日本疫学会HP(疫学用語の基礎知識>索引>交絡バイアス 交絡因子 http://glossary.jeaweb.jp/glossary014.html)から「コーヒーの摂取が心筋梗塞に関連するか」を検討したとき、コーヒー摂取の集団に喫煙者が多かった例を参考としてください。交絡因子をテーマとした過去問題の類題には、第102回薬剤師国家試験 問125の選択肢5(問102-125-5)があります。問102-125は、BLOGから eラーニングの無料体験をしていただくことができます(松廼屋|論点解説 薬剤師国家試験対策ノート問102-125【衛生】論点:疫学研究 4. 交絡因子  https://matsunoya.thebase.in/blog/2018/10/14/161500 )。併せて学習しておくと、実力アップにつながります。リンクから、チャレンジしてみましょう。なお、第103回薬剤師国家試験 問127は、「採点にあたって考慮した問題」として、3つの選択肢が正解(出題時は誤っている記述を2つ選択する形式)とされました(厚生労働省|薬剤師国家試験のページ / 過去の薬剤師国家試験の結果 https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/iyakuhin/yakuzaishi-kokkashiken/index.html / 第103回 PDF https://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-11120000-Iyakushokuhinkyoku/0000199399.pdf )。
追記|
問103-127で出題された「福岡県久山町における疫学調査」は、昭和36年(1961年)に、九州大学教授の勝木 司馬之助氏らによって始められたスタディで、現在に至るまで、様々な疫学分析が行われています。
出典:J-stage|勝木 司馬之助, 久山町研究, 日本内科学会雑誌, 58(13), 13-15 (1969) doi: https://doi.org/10.2169/naika.58.13_13
出題の高血圧と認知症に関する疫学研究の出典としては、2012年の下記の文献(小原 知之
九州大学大学院医学研究院 精神病態医学)が近いかもしれません。この疫学研究が行われた背景や、結果・考察の詳細が掲載されています。福岡県久山町は、年齢・職業構成および栄養摂取状況が日本の平均レベルにあり、偏りがほとんどない「典型的な日本人の集団」という理由から、50年間にわたり疫学研究の対象とされてきました。より深い学習には、論文を走り読みしてみることも役立つと思います。
出典:J-stage|小原 知之ら, 地域高齢者における認知症の実態─久山町研究, 日本生物学的精神医学会誌, 23(3) 211-216 (2012) doi: https://doi.org/10.11249/jsbpjjpp.23.3_211
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走る!「衛生」Twitter Ver. 疫学研究/第103回-問127|薬剤師国家試験対策ノート


ポイント|
【A】には、【B】と【C】とがあり、【B】とは、【D】など何らかの【E】が行われる研究のことで、他方、【C】とは、研究の対象集団を設定するが、条件・要因に対して人為的に【E】しない研究のことである。【C】は、研究要因を【F】できないため、【B】と比較して、【G】・【H】が入り込みやすい側面がある。【C】の代表的な研究としては、【I】がある。
【H】は、【G】の存在によって生じる。【G】の3つの要件は、【G】と思われる要因(例えば、年齢)が、1)【J】に影響を与える、2)【K】と関連がある、3)【K】と【J】の中間因子でない、という3条件である。【G】が【K】と【J】の双方に関連し、片方の「【K】あり」に偏在する場合は、2つの集団の【J】を比較する際に、【H】を生じる。

A. 疫学研究
B. 介入研究
C. 観察研究
D. 特定の検査・治療、薬物投与など
E. 介入
F. ランダムに割付け
G. 交絡因子
H. 交絡バイアス
I. 横断研究、症例対照研究、コホート研究
J. アウトカム(例えば脳血管疾患の発生)
K. 要因(例えば喫煙)

では、問題を解いてみましょう!すっきり、はっきりわかったら、合格です。
第103回薬剤師国家試験|薬学理論問題 / 問127 Q. 表は、福岡県の久山町研究において65歳以上の住民826名を15年間追跡し、65歳の時点での高血圧と耐糖能異常が、その後の脳血管性認知症とアルツハイマー病の発症に及ぼす影響について調べたものである。この結果から導き出される結論として誤っているのはどれか。

選択肢
1. 耐糖能異常は、単独でアルツハイマー病の危険因子となる。
2. 耐糖能異常がない場合、高血圧はアルツハイマー病を抑制する因子となる。
3. 高血圧及び耐糖能異常は、いずれも単独で脳血管性認知症の危険因子となる。
4. 脳血管性認知症は高血圧の危険因子となる。
5. 高血圧はアルツハイマー病に対する耐糖能異常の影響を解析する上で、交絡因子となる。(論点:疫学研究 コホート研究)
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以上。BLNtより。

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