2018/10/12 16:00

第102回薬剤師国家試験|薬学理論問題 / 問125 Q. 喫煙者と非喫煙者における脳血管疾患の年齢階級別発生率を調べ、喫煙と脳血管疾患との関係を調べたところ、表に示す結果が得られた。この結果に関する記述として、正しいのはどれか。

選択肢
1. この表は、症例-対照研究の結果を示している。
2. この表における相対危険度は、喫煙をやめることによって脳血管疾患発症数がどれくらい減少できるかを示している。
3. 全ての年齢群のうち、55~59歳の群は、喫煙が脳血管疾患を発症させるリスクが最も高いと考えられる。
4. 65~69歳の群の相対危険度の値が全ての年齢群の値より低いのは、加齢によって脳血管疾患の罹患率(罹患リスク)が喫煙の有無にかかわらず高くなるためであると考えられる。
5. 喫煙と脳血管疾患罹患率(罹患リスク)との関係を解析する上で、年齢が交絡因子となっている。
(論点:疫学研究)
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松廼屋|論点解説 薬剤師国家試験対策ノート問102-125【衛生】論点:疫学研究 2. 相対危険度・寄与危険度

 こんにちは!薬学生の皆さん。BLNtです。解説します。薬剤師国家試験の衛生から疫学研究を論点とした問題です。第102回薬剤師国家試験問125(問102-125)は、疫学研究における観察研究の理解を問われました。疫学研究に関する最新の詳細な参考資料としては、日本疫学会のホームページ(HP)「日本疫学会|疫学用語の基礎知識 > 索引 http://glossary.jeaweb.jp/index/index.html」およびCORE Journal循環器onlineのHP「CORE Journal循環器online|EBM用語集 http://www.lifescience.co.jp/core_j_circ/glossary/index.php」に科学的かつ目的に合った情報が記載されていますので、一読することをお勧めします。情報がわかり易く整理してありました。詳細は、上記、HPをご参照ください。CORE Journal循環器online|EBM用語集>介入研究・観察研究 http://www.lifescience.co.jp/core_j_circ/glossary によれば、疫学研究には、介入研究と観察研究とがあり、介入研究とは、特定の検査・治療、薬物投与など何らかの介入が行われる研究のことで、他方、観察研究とは、研究の対象集団を設定しますが、条件・要因に対して人為的に介入しない研究のことです。観察研究の代表的な研究としては、横断研究、症例対照研究、コホート研究があります。

※まとめと作図:松廼屋|論点解説(第102回薬剤師国家試験 薬学理論問題 衛生 問125)より
参考資料:
CORE Journal循環器online|EBM用語集 http://www.lifescience.co.jp/core_j_circ/glossary/index.php
>介入研究 >観察研究
日本疫学会|疫学用語の基礎知識>索引 http://glossary.jeaweb.jp/index/index.html

問102-125は、選択肢ごとにテーマ(観察研究 / 症例対照研究・コホート研究、相対危険度・寄与危険度、交絡因子)が異なるので、別々に解説します。選択肢1の解説(松廼屋|論点解説 薬剤師国家試験対策ノート問102-125【衛生】論点:疫学研究 1. https://matsunoya.thebase.in/blog/2018/10/11/184500)は、BLOG( https://matsunoya.thebase.in/blog )から eラーニング教材の無料体験をしていただくことができます。選択肢2(問102-125-2)を解く前に復習しておくとよいです。

選択肢2. 論点:相対危険度・寄与危険度
Q. 2. この表における相対危険度は、喫煙をやめることによって脳血管疾患発症数がどれくらい減少できるかを示している。A.【正|誤】|

解説します。第102回薬剤師国家試験問125、選択肢2(問102-125-2)は、論点「疫学研究」のうち、コホート研究の指標である相対危険度・寄与危険度をテーマとした正誤問題でした。コホート研究の指標として、罹患率、相対危険度(RR)、寄与危険度(AR)および寄与危険割合(PAR)があります。選択肢2ではこれらの指標の意味を理解しているか問われました。
上記、日本疫学会HP(疫学用語の基礎知識>索引>相対危険 http://glossary.jeaweb.jp/glossary017.html)によれば、相対危険度(relative risk, risk ratio, RR)は、要因暴露群の罹患率(=罹患リスク)の、非要因暴露群の罹患率(=罹患リスク)に対する式1)で示されます。RRをリスク比と呼ぶ場合もあります。RRは、要因曝露した場合(例えば喫煙)、非暴露と比較して何倍疾病に罹りやすくなるかを示す指標で、疾病罹患と要因曝露との関連の強さを示します。

相対危険度(RR)=〔A /(A+B)〕÷〔C /(C+D)〕 …(式1)

一方、日本疫学会HP(疫学用語の基礎知識>索引>寄与危険と寄与危険割合 http://glossary.jeaweb.jp/glossary018.html)によれば、寄与危険度(attributable risk, AR)は、要因曝露群の罹患率(=罹患リスク)と非要因曝露群の罹患率(=罹患リスク)との式2)で示され、リスク差と呼ぶ場合もあります。ARは、要因曝露によって罹患率(=罹患リスク|例えば、人口1000人当たりの患者数)がどれだけ増えたか、要因曝露がなければ罹患リスクがどれだけ減少するかの差分、つまり要因(例えば喫煙)が集団に与える影響の大きさを示す指標です。ARは、公衆衛生対策において重要な指標で、疾病予防における要因除去の寄与を意味します。

寄与危険度(AR)=〔A /(A+B)〕-〔C /(C+D)〕 …(式2)

選択肢2の記述「喫煙をやめることによって脳血管疾患発症数がどれくらい減少できるかを示している」は、要因除去によって集団(例えば、人口1000人)での発症数がどれくらい減少するかを示す指標に関する記述ですから寄与危険度(AR)に関する記述です。選択肢3(問102-125-3)の論点解説で後述しますが、設問の表の例でみると、年齢階級別の寄与危険度(AR)は、55~59歳の群で36.8(対千人)と全ての年齢階級のうち最大値を示し、45~49歳の群では22.3(対千人)と4番目に大きい値を示しました。この例では、喫煙者を禁煙させることによって、それぞれの年齢階級で、それぞれ1000名のうち36.8名(55~59歳)および22.3名(45~49歳)は脳血管疾患を予防できると考えられます。これは、要因除去が集団に与える影響(脳血管疾患になる人数の減少)の大きさは、55~59歳のほうが45~49歳よりも大きいことを示します。一方、年齢階級別の相対危険度(RR)は、45~49歳の群で4.0と全ての年齢階級のうち最大値を示し、55~59歳の群では2.3と2番目に大きい値を示しました。この例では喫煙群が非喫煙群に比べ脳血管疾患になるリスクが、それぞれ4.0倍(45~49歳)および2.3倍(55~59歳)であると考えられます。これは、疾病罹患(脳血管疾患になること)と要因曝露(喫煙)との関連の強さが、45~49歳のほうが55~59歳よりも大きいことを示します。


ここでは、頑張って、さらに、寄与危険割合(percent attributable risk, PAR)も学習しておきましょう。PARは、寄与危険度(AR)が要因曝露群の罹患率(=罹患リスク)に占める割合で、ARを要因暴露群(例:喫煙者)の罹患率で除して100を乗じた値(%)です(式3)。要因曝露群(例:喫煙者)の中で発症した患者のうち、真に要因曝露(例:喫煙)が影響して発症した患者は何%かを示す指標です。

寄与危険割合(PAR)=AR÷〔A /(A+B)〕 …(式3)

設問の表には明示されていませんが、寄与危険割合を算出すると、年齢階級別の寄与危険割合は、45~49歳の群で75%と全ての年齢階級のうち最大値を示し、55~59歳の群では57%と2番目に大きい値を示しました。この例では、喫煙者(要因暴露群)の脳血管疾患患者のうち、それぞれ75%(45~49歳)および57%(55~59歳)が、真に喫煙に起因して脳血管疾患になったと考えられます。これは、要因曝露群において喫煙が影響して発症した疾患患者の割合は、45~49歳のほうが55~59歳よりも大きいことを示します。つまり、喫煙者が脳血管疾患を発症した要因として、45~49歳よりも55~59歳のほうが喫煙以外の要因が増えたと考えられます。図1に問102-125の表に寄与危険割合および罹患率の年齢階級による推移を示したグラフを加えた図表を示します。

図1 喫煙者・非喫煙者の年齢別脳血管疾患罹患率(コホート研究)※まとめと作図:松廼屋|論点解説(第102回薬剤師国家試験 薬学理論問題 衛生 問125)より 出典:第102回薬剤師国家試験 問125 表 寄与危険割合を追加する等、若干改変して作図

なお、日本疫学会HP(疫学用語の基礎知識>索引>オッズ比 http://glossary.jeaweb.jp/glossary019.html)によれば、オッズとは、見込みを意味し、ある事象が起きる確率pの、その事象が起きない確率(1−p)に対する比〔p/(1-p)〕です。オッズ比とはオッズa/bとオッズc/dとの比(式4)です。

オッズ比=(a/b)/(c/d)=(a×d)/(b×c) …(式4)

症例対照研究の場合、相対危険と寄与危険を直接計算することができないので、①罹患集団・非罹患集団が共通の母集団からのサンプリングであって母集団を代表している、②疾病の発症率が低い、などが成り立つとき、オッズ比を相対危険度の近似式として用います。
図2に、コホート研究のRR、AR、およびPARならびに症例対照研究のオッズ比を算出する表と式をまとめて論点解説動画で示しました。

図2 コホート研究の相対危険度(RR)、寄与危険度(AR)、および寄与危険割合(PAR)ならびに症例対照研究のオッズ比 概要 ※まとめと作図:松廼屋|論点解説(第102回薬剤師国家試験 薬学理論問題 衛生 問125)より 出典:日本疫学会|疫学用語の基礎知識 > 索引 http://glossary.jeaweb.jp/index/index.html

ここまでの学習内容を論点解説動画で復習します。
YouTube|走る!「衛生」Twitter Ver. 疫学研究/第102回-問125(1)|薬剤師国家試験対策ノート
論点:疫学研究 観察研究 / 症例対照研究・コホート研究

YouTube|走る!「衛生」Twitter Ver. 疫学研究/第102回-問125(2)|薬剤師国家試験対策ノート
論点:相対危険度・寄与危険度

ここからの学習内容を論点解説動画で予習します。
YouTube|走る!「衛生」Twitter Ver. 疫学研究/第102回-問125(3)|薬剤師国家試験
論点:相対危険度・寄与危険度

(選択肢3 論点:相対危険度・寄与危険度につづく。。。)

ポイント|
コホート研究の指標として、【A】、【B】、【C】および【D】がある。
【B】は、要因暴露群の【A】の、非要因暴露群の【A】に対する比で示され【E】と呼ぶ場合もある。【B】は、要因曝露した場合、非暴露と比較して【F】を示す指標で、【G】を示す。
【C】は、要因曝露群の【A】と非要因曝露群の【A】との差で示され【H】と呼ぶ場合もある。【C】は、要因曝露によって【I】がどれだけ増えたか、要因曝露がなければ【I】がどれだけ減少するかの差分、つまり要因が【J】を示す指標である。【K】において重要な指標で、疾病予防における【L】を意味する。
【D】は、【C】が要因曝露群の【A】に占める割合で、【C】を要因暴露群の【A】で除して100を乗じた値(%)である。要因曝露群の中で発症した患者のうち、【M】した患者は何%かを示す。
【N】とは、【O】を意味し、ある事象が起きる確率pの、その事象が起きない確率(1−p)に対する比〔p/(1-p)〕である。【N】比とは【N】a/bと【N】c/dとの比で、【P】では【B】と【C】を直接計算することはできないので、①患者群・対象群が【Q】している、②疾病の【R】、などが成立すれば、【N】比を【B】の近似式として用いる。

A. 罹患率
B. 相対危険度(RR)
C. 寄与危険度(AR)
D. 寄与危険割合(PAR)
E. リスク比
F. 何倍疾病に罹りやすくなるか
G. 疾病罹患と要因曝露との関連の強さ
H. リスク差
I. 罹患リスク
J. 要因が集団に与える影響の大きさ
K. 公衆衛生対策
L. 要因除去の寄与
M. 真に要因曝露が影響して発症
N. オッズ
O. 見込み
P. 症例対照研究
Q. 共通の母集団からのサンプリングであって母集団を代表
R. 発症率が低い

では、問題を解いてみましょう!すっきり、はっきりわかったら、合格です。
第102回薬剤師国家試験|薬学理論問題 / 問125 Q. 喫煙者と非喫煙者における脳血管疾患の年齢階級別発生率を調べ、喫煙と脳血管疾患との関係を調べたところ、表に示す結果が得られた。この結果に関する記述として、正しいのはどれか。

選択肢
1. この表は、症例-対照研究の結果を示している。
2. この表における相対危険度は、喫煙をやめることによって脳血管疾患発症数がどれくらい減少できるかを示している。
3. 全ての年齢群のうち、55~59歳の群は、喫煙が脳血管疾患を発症させるリスクが最も高いと考えられる。
4. 65~69歳の群の相対危険度の値が全ての年齢群の値より低いのは、加齢によって脳血管疾患の罹患率(罹患リスク)が喫煙の有無にかかわらず高くなるためであると考えられる。
5. 喫煙と脳血管疾患罹患率(罹患リスク)との関係を解析する上で、年齢が交絡因子となっている。
(論点:疫学研究)
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以上。BLNtより。

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