2019/10/25 08:21
こんにちは!薬学生の皆さん。BLNtです。今回の「松廼屋|論点解説」では、トリチウムの人体への影響および環境中のトリチウムについて、人口動態の死亡の動きから、引き続き、乳児死亡、死産および周産期死亡に関する都道府県別の年次データを例に、実際のデータに基づく独自の解析結果と視覚化したグラフを使って、母体の妊娠への影響と胎児および乳児への放射線の影響について考察します。
薬剤師国家試験問題ではない論点解説番外編をお届けします。論点は、衛生 / 疫学研究から、放射線の健康影響です。
今回の論点解説では、4つの都道府県を対照として選択し、乳児死亡数と妊娠満22週以後の死産数から算出した妊娠満22週以後から生後1年未満の死亡率(以下、全死亡率)に着目して、福井県およびすべての都道府県の死亡率に関する相対危険度、寄与危険度および寄与危険割合の年次推移を比較しました。その経年的な動向から、福井県、周辺の都道府県やすべての都道府県において、要因(ここでは、大気中または飲料水中あるいは食品中のトリチウム水を原因とした内部被ばくを想定します。)を持つ妊婦および乳児において、要因によって健康影響(不妊、死産、乳児死亡)が増加する可能性を究明し、かつ要因と死亡率の因果関係の推定を探索的に行うことを目的とします。
Each Prefecture's relative risk to the control prefecture regarding total mortality from mortality after 22 weeks of pregnancy to infant mortality and prefecture (1995-2017)
Control:Hyogo Pref. Source: 平均 / 全死亡率_RR兵庫県 1995 - 2017
Each prefecture arranged in descending order of total mortality from mortality after 22 weeks of pregnancy to infant mortality was compared in the order of yearly transition in a stacked line chart.
※独自に集計・作図 Relative risks were tabulated and plotted by Yukiho Takizawa.
松廼屋|論点解説 薬剤師国家試験対策ノート番外編 【衛生 / 疫学研究】論点:放射線 / トリチウム
データで見るトリチウム(H-3)の健康影響|局所的に放出されたトリチウム
- 乳児死亡および死産の人口動態を例として -
松廼屋 Mats.theBASE BLOG https://matsunoya.thebase.in/blog
2019/10/25 06:00 公開 https://matsunoya.thebase.in/blog/2019/10/25/060000
目次|
|はじめに
|データで見るトリチウム(H-3)の健康影響(5)視覚化による各都道府県の比較 (2)
1-1|それぞれの指標の意味
1-2|考察のポイント
2|それぞれの指標の比較 / 各都道府県(年次推移)
2-1|相対危険度(RR)
2-2|寄与危険度(AR)
2-3|寄与危険割合(PAR)による死産数・死亡数の推計
3|福井県の部位別がん死亡率に想定される要因
|はじめに
原子力発電施設から、気圏または水圏に放出されたトリチウム(H-3)に起因する大気中トリチウム水蒸気の放射活性濃度レベルでの被ばくが、福井県、および、周辺地域、ならびに、他県において、健康に影響する可能性を、乳児死亡および死産の人口動態の動向を例として、妊娠満22週以後から生後1年未満の死亡率(以下、全死亡率)に着目し、死亡率の都道府県別の年次推移(1995年~2017年)から、読み解きます。なお、トリチウムの人体への影響(部位別のがんの死亡率)およびトリチウムの環境中での挙動に関する基礎知識、最新の環境中トリチウムの動向は、一連の論点解説を参考としてください。あらかじめ学んでおくと、下述する「データで見るトリチウム(H-3)の健康影響(5)」について、各自で考察をするときに役立ちます。
2019.09.26 公開 https://matsunoya.thebase.in/blog/2019/09/26/200000
2019.10.01 公開 https://matsunoya.thebase.in/blog/2019/10/01/194500
2019.10.04 公開 https://matsunoya.thebase.in/blog/2019/10/04/171500
2019/10/09 公開 https://matsunoya.thebase.in/blog/2019/10/09/070000
2019/10/20 公開 https://matsunoya.thebase.in/blog/2019/10/20/114500
解析に用いたデータソース|
この論点解説で用いた視覚化したデータは、下記の文献1-1からCSVファイルで入手し、独自にデータベース化し解析および作図したものです。※死亡率および死産率は、文献1-2の計算式に準じて独自に算出。
(この解説で使用した解析結果や図表について、電子データでの入手等をご希望される場合は、デジタルデータダウンロード商品としてご購入していただく方法があります。CONTACT https://thebase.in/inquiry/matsunoya からお問い合わせください。)
引用文献
文献1-1. e-Stat https://www.e-stat.go.jp/ 都道府県・市区町村のすがた(社会・人口統計体系) https://www.e-stat.go.jp/regional-statistics/ssdsview データ:社会・人口統計体系 都道府県データ 最終更新日:2019-06-21
項目|A4101_出生数【人】、A4271_死産数(妊娠満22週以後)【胎】、A4272_早期新生児死亡数【人】、A4280_新生児死亡数【人】、A4281_乳児死亡数【人】(1995年~2017年)全国および各都道府県のデータ
文献1-2. 厚生労働省|人口動態調査 > 結果の概要 https://www.mhlw.go.jp/toukei/list/81-1a.html 平成30年我が国の人口動態(平成28年までの動向) https://www.mhlw.go.jp/toukei/list/dl/81-1a2.pdf
文献2. 大気中のトリチウム放射活性濃度(1977~2018)
日本の環境放射能と放射線 https://www.kankyo-hoshano.go.jp/kl_db/servlet/com_s_index 環境放射線データベース https://search.kankyo-hoshano.go.jp/servlet/search.top
一連の論点解説で下記の参考資料を引用します。
疫学研究の用語に関する参考資料|
文献3. CORE Journal循環器online|EBM用語集 http://www.lifescience.co.jp/core_j_circ/glossary/index.php
文献4. 日本疫学会HP>疫学用語の基礎知識 目次
寄与危険と寄与危険割合 http://glossary.jeaweb.jp/glossary018.html
その他、解説に引用する参考資料|
文献5. 原子力百科事典ATOMICA https://atomica.jaea.go.jp/
文献5-1. 放射線影響と放射線防護>放射線による生物影響>生物効果の基礎原理>トリチウムの生物影響(09-02-02-20|更新日2000年03月) https://atomica.jaea.go.jp/data/detail/dat_detail_09-02-02-20.html
文献5-2. 放射線影響と放射線防護>環境中の放射能>環境中での移行と挙動>トリチウムの環境中での挙動(09-01-03-08|更新日2004年08月) https://atomica.jaea.go.jp/data/detail/dat_detail_09-01-03-08.html
解析方法と目的|
この論点解説では、全てのそれぞれの都道府県を要因暴露群として、全国値または他の選択した特定の都道府県を対照(要因非暴露群を想定します。)としています。コホート研究の指標である相対危険度(RR)および寄与危険度(AR)ならびに寄与危険割合(PAR)を視覚化することによって、経年的な動向から、要因(ここでは、大気中または飲料水中のトリチウム水を原因とした内部被ばくを想定します。)を持つ女性または胎児から乳児が、死産または死亡する可能性を究明し、かつ要因と死産または死亡率の因果関係の推定を探索的に行うことを目的とします。
疫学研究は難しい? わからない?
いいえ、基礎がわかれば、データを見て実際に起こっていることを知ったり、自分なりに考察したり、友達や家族と一緒にデータを見て思ったことを話題にすることはできるのです。この機会に、一緒に、トリチウムが原子力発電施設から放出された場合のトリチウムの健康影響に関しての考察の一歩を踏み出してみましょう。
そして、ここに掲載した全データから、薬学生の皆さんは、自分たちが目指す「命と向き合う」仕事とは何なのか、物理・放射線・衛生・健康・疫学研究に関する総合的な教育を受けた薬剤師の役割や研究開発に携わる科学者の役割とは何なのかについて、考えてみるとよいと思います。今、自分はどうあるべきか、何を学ぶことが、何をすることが、大切なのかを考えるきっかけの時間の一つにしてください。
|データで見るトリチウム(H-3)の健康影響(5)
視覚化による各都道府県の比較(死産・乳児死亡・周産期死亡の動向)
1-1|それぞれの指標の意味
疫学研究の観察研究のひとつであるコホート研究(要因対照研究)は、コホート(それぞれの共通する要因を持つ人たちの集団)がある転帰(アウトカム / 例:死亡)を示すか追跡する研究です。コホート研究の指標として、罹患率(または、死亡率)、相対危険度(relative risk, risk ratio, RR|疫学の要因分析で重要な指標)、寄与危険度(attributable risk, AR|公衆衛生対策で重要な指標)および寄与危険割合(percent attributable risk, PAR)があります。RRはリスク比、ARはリスク差、PARは要因が真にリスク(罹患)に影響した患者(死亡)の割合です。詳細は、以下の論点解説をあらかじめ復習して完全攻略しよう!
松廼屋|論点解説 薬剤師国家試験対策ノート問99-127【衛生】論点:疫学研究 / 観察研究
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2019/08/15 14:45 公開 https://matsunoya.thebase.in/blog/2019/08/15/144500
前回は、全国値および兵庫県を対照として、RRおよびARを指標として解析し、さらに兵庫県を対照とした場合のPARから真にリスク(罹患)に影響した患者(死亡)数を推計しました。今回は、兵庫県、長野県、岡山県、広島県を対照としてRRとARに加えてPARを指標として、妊娠満22週以後から生後1年未満の死亡率(以下、全死亡率)に着目して、死産および乳児死亡の動向を示します。PARは、ARが要因曝露群の罹患率(死亡率)に占める割合です。ARを要因暴露群の罹患率で除して100を乗じた値(%)(式3)で要因曝露群(例:β線の内部被ばく)の患者のうち、真に要因曝露が影響してアウトカム(例:死産または乳児死亡)に至った妊婦または乳児は何%かを示す指標です。
寄与危険割合(PAR)=AR /〔A /(A+B)〕× 100 …(式3)
例えば、都道府県別の死産率(妊娠満22週以後)または早期新生児死亡率のPARに、その都道府県の死産数(妊娠満22週以後)または早期新生児死亡数を乗じると、真に要因曝露(例:β線の内部被ばく)が影響してアウトカム(例:死産または乳児死亡)に至った死産の数(胎)と早期新生児死亡数(人)が推計されます。この両者を足した値が、真に要因曝露が影響してアウトカムに至った周産期死亡数の推計値になります。なお、対照に要因曝露がないことを仮定しているので、全国値を対照とした場合は、推計値は少なく見積もられます。他県を対照とした場合も同様に、要因曝露があれば、推計値は少なく見積もられます。他方、交絡バイアスがあれば、要因曝露のみの影響とは考えられない場合があります。
1-2|考察のポイント
対照とした4つの都道府県(兵庫県、長野県、岡山県、広島県)によって指標の動向の違いがあるか確認します。長野県を対照とした指標が、平均値では他の都道府県を対照とした場合よりも最も高い値を示す傾向が認められました。他方、顕著な動向に関しては、同様の結果が得られました。全死亡のRRは、いくつかの都道府県で類似のパターンを示しました。全死亡のRR(要因の関連)、AR(公衆衛生への影響)の最大値、ARの累計、順位、特徴的な年次、PARが何%かを確認します。
2|それぞれの指標の比較 / 各都道府県(年次推移)
2-1|相対危険度(RR)
要因曝露した場合、要因に曝露しなかった場合に比べて、何倍死亡するか(死亡率の場合)という、要因曝露と死亡との関連(相対危険)の強さを示します。
RR 全死亡率 / 対照:兵庫県、長野県、岡山県、広島県
Annual trends in total mortality from mortality after 22 weeks of pregnancy to infant mortality (per 1,000 births)
Relative risk:
Control:Pref. Hyogo, Nagano, Okayama, Hiroshima
Source: 平均 / 全死亡率_RR兵庫県、平均 / 全死亡率_RR長野県、平均 / 全死亡率_RR岡山県、平均 / 全死亡率_RR広島県 1995 - 2017
Control:Pref. Hyogo
Each prefecture arranged in descending order of total mortality from mortality after 22 weeks of pregnancy to infant mortality was compared in the order of yearly transition in a stacked line chart.
Key:
1997
1998
1999
2002
2008
2011
2012
2016
2017
Control:Pref. Hyogo, Nagano, Okayama, Hiroshima
The annual average of 1995-2017 for each prefecture in descending order of total mortality from mortality after 22 weeks of pregnancy to infant mortality.
Relative risk: Line chart and stacked line chart
Area code: 1 - 4, Pref. Hokkaido, Aomori, Iwate, Miyagi
Area code: 5 - 8 Pref. Akita, Yamagata, Fukushima, Ibaraki
Area code: 9 - 12, Pref. Tochigi, Gunma, Saitama, Chiba
Area code: 13 - 16, Pref. Tokyo, Kanagawa, Niigata, Toyama
Area code: 17 - 20, Pref. Ishikawa, Fukui, Yamanashi, Nagano
Area code: 21 - 24, Pref. Gifu, Shizuoka, Aichi, Mie
Area code: 25 - 28, Pref. Shiga, Kyoto, Osaka, Hyogo
Area code: 29 - 32, Pref. Nara, Wakayama, Tottori, Shimane
Area code: 33 - 36, Pref. Okayama, Hiroshima, Yamaguchi, Tokushima
Area code: 37 - 40, Pref. Kagawa, Ehime, Kochi, Fukuoka
Area code: 41 - 44, Pref. Saga, Nagasaki, Kumamoto, Oita
Area code: 0, 45- 47, Pref. National value, Miyazaki, Kagoshima, Okinawa
2-2|寄与危険度(AR)
要因曝露によって死亡リスク(=死亡率|例えば、出生1000人当たりの死亡数)が対照との差分としてどれだけ増えたか、要因に曝露されなければ死亡リスクが差分としてどれだけ減少するか、要因が集団に与える影響(寄与危険)の大きさを示します。
AR 全死亡率 / 対照:兵庫県、長野県、岡山県、広島県
Annual trends in total mortality from mortality after 22 weeks of pregnancy to infant mortality
Attributable risk:
Total mortality from mortality after 22 weeks of pregnancy to infant mortality displayed by the line chart and the stacked bar chart.
Control:Hyogo, Nagano, Okayama, Hiroshima
Source: 平均 / 全死亡率_AR兵庫県、平均 / 全死亡率_AR長野県、平均 / 全死亡率_AR岡山県、平均 / 全死亡率_AR広島県 (per 1,000 births) 1995 - 2017
The annual average of 1995-2017 for each prefecture in descending order of total mortality from mortality after 22 weeks of pregnancy to infant mortality.
Attributable risk:
Area code: 1 - 4, Pref. Hokkaido, Aomori, Iwate, Miyagi
Cumulative AR (1996 - 2017)
Area code: 5 - 8 Pref. Akita, Yamagata, Fukushima, Ibaraki
Cumulative AR (1996 - 2017)
Area code: 9 - 12, Pref. Tochigi, Gunma, Saitama, Chiba
Cumulative AR (1996 - 2017)
Area code: 13 - 16, Pref. Tokyo, Kanagawa, Niigata, Toyama
Cumulative AR (1996 - 2017)
Area code: 17 - 20, Pref. Ishikawa, Fukui, Yamanashi, Nagano
Cumulative AR (1996 - 2017)
Area code: 21 - 24, Pref. Gifu, Shizuoka, Aichi, Mie
Cumulative AR (1996 - 2017)
Area code: 25 - 28, Pref. Shiga, Kyoto, Osaka, Hyogo
Cumulative AR (1996 - 2017)
Area code: 29 - 32, Pref. Nara, Wakayama, Tottori, Shimane
Cumulative AR (1996 - 2017)
Area code: 33 - 36, Pref. Okayama, Hiroshima, Yamaguchi, Tokushima
Cumulative AR (1996 - 2017)
Area code: 37 - 40, Pref. Kagawa, Ehime, Kochi, Fukuoka
Cumulative AR (1996 - 2017)
Area code: 41 - 44, Pref. Saga, Nagasaki, Kumamoto, Oita
Cumulative AR (1996 - 2017)
Area code: 0, 45- 47, Pref. National value, Miyazaki, Kagoshima, Okinawa
Cumulative AR (1996 - 2017)
2-3|寄与危険割合(PAR)
要因曝露群(例:β線の内部被ばく)の死亡者のうち、真に要因曝露が影響してアウトカム(例:死産または乳児死亡)に至った妊婦(胎児の死亡)および乳児の死亡は何%かを示す指標です。
PAR 全死亡率 / 対照:兵庫県、長野県、岡山県、広島県
Annual trends in total mortality from mortality after 22 weeks of pregnancy to infant mortality
Percent of attributable risk:
Total mortality from mortality after 22 weeks of pregnancy to infant mortality displayed by the line chart and the stacked bar chart.
Control:Hyogo, Nagano, Okayama, Hiroshima
Source: 平均 / 全死亡率_PAR兵庫県、平均 / 全死亡率_PAR長野県、平均 / 全死亡率_PAR岡山県、平均 / 全死亡率_PAR広島県 (%)
1995 - 2017
The annual average of 1995-2017 for each prefecture in descending order of total mortality from mortality after 22 weeks of pregnancy to infant mortality.
Percent of attributable risk:
Area code: 1 - 4, Pref. Hokkaido, Aomori, Iwate, Miyagi
Area code: 5 - 8 Pref. Akita, Yamagata, Fukushima, Ibaraki
Area code: 9 - 12, Pref. Tochigi, Gunma, Saitama, Chiba
Area code: 13 - 16, Pref. Tokyo, Kanagawa, Niigata, Toyama
Area code: 17 - 20, Pref. Ishikawa, Fukui, Yamanashi, Nagano
Area code: 21 - 24, Pref. Gifu, Shizuoka, Aichi, Mie
Area code: 25 - 28, Pref. Shiga, Kyoto, Osaka, Hyogo
Area code: 29 - 32, Pref. Nara, Wakayama, Tottori, Shimane
Area code: 33 - 36, Pref. Okayama, Hiroshima, Yamaguchi, Tokushima
Area code: 37 - 40, Pref. Kagawa, Ehime, Kochi, Fukuoka
Area code: 41 - 44, Pref. Saga, Nagasaki, Kumamoto, Oita
Area code: 0, 45- 47, Pref. National value, Miyazaki, Kagoshima, Okinawa
※独自に集計・作図 The mortality rate, RR, AR, and PAR were tabulated and plotted by Yukiho Takizawa.
3|福井県の部位別がん死亡率に想定される要因
前々回の論点解説参照。
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