2018/12/03 14:00
第102回薬剤師国家試験|薬学理論問題 / 問131 Q. 染料などの工業原料に使用され、N-水酸化により代謝的活性化されて膀胱がんの原因となるのはどれか。
選択肢
(論点:代謝 / 代謝的活性化)
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松廼屋|論点解説 薬剤師国家試験対策ノート問102-131【衛生】論点:代謝 / 代謝的活性化1
こんにちは!薬学生の皆さん。BLNtです。解説します。薬剤師国家試験の衛生の薬物動態から代謝、代謝的活性化を論点とした問題です。第102回薬剤師国家試験の問131(問102-131)では、染料などの原料として使用されてきた芳香族アミンの代謝的活性化と膀胱がんの発現に関する理解が問われました。問102-131を第1回( https://matsunoya.thebase.in/blog/2018/12/03/140000 )、第2回(2018/12/04 AM 07:00公開予定! https://matsunoya.thebase.in/blog/2018/12/04/070000 )に分けて解説します。第1回は、各選択肢の化学構造式に相当する化合物と、問102-131の論点との関連性に関して、概要を解説します。最初に、正答以外の化合物を確認します。
選択肢1は、ヘテロサイクリックアミン(HCA)のひとつ、Trp-P-1(IUPAC名|3-Amino-1,4-dimethyl-5H-pyrido[4,3-b]indole)です。肉や魚を高温調理した際に生成する発がん性物質です。HCAの代謝的活性化を論点とした設問に、第100回薬剤師国家試験 問131(問100-131)、および、第98回薬剤師国家試験 問123 選択肢4(問98-123-4)があります。選択肢2は、N,N-Dimethylnitrosoamineです。厚生労働省 職場のあんぜんサイト|製品安全データシート / N,N-ジメチルニトロソアミン http://anzeninfo.mhlw.go.jp/anzen/gmsds/0800.html によれば、製造作業者に肝障害が生じた災害事例があります。他方、食品の安全の視点から発がんメカニズムを問われることがあります。ニトロソアミンを論点とした設問に、第98回薬剤師国家試験 問123 選択肢1(問98-123-1)、第101回薬剤師国家試験 問123 選択肢4(問101-123-4)があります。これらの過去問題は、論点解説を無料で体験していただけます。
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なお、選択肢4は、Psilocin(サイロシン|IUPAC名:3-[2-(dimethylamino)ethyl]-1H-indol-4-ol)です。化学構造としては、トリプタミンを基本骨格として有していることに着目するとよいです。Psilocinの別名は、4-hydroxydimethyltriptamineです。構造的にセロトニン (5-HT|5-hydroxytryptamine) と似ています。5-HT受容体のアゴニストとして作用します。シロシビン(サイロシビン)・シロシン(サイロシン)は、マジックマッシュルームの一種であるPsilocybe argentipesの幻覚成分です(参考資料:厚生労働省|自然毒のリスクプロファイル:ヒカゲシビレタケ(Psilocybe argentipes) モエギタケ科シビレタケ属 https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000143413.html )。厚生労働省|麻薬、向精神薬および麻薬向精神薬原料を指定する政令の一部を改正する政令の施行について (平成14年5月7日|医薬発第0507001号、各都道府県知事・各地方厚生(支)局長あて厚生労働省医薬局長通知) https://www.mhlw.go.jp/web/t_doc?dataId=00tb3892&dataType=1&pageNo=1 によれば、平成14年の政令改正において、すでに麻薬指定されているサイロシビン・サイロシンを含有する幻覚性きのこ(いわゆる「マジックマッシュルーム」)が麻薬原料植物として規制することとされました。
次に、問102-131の正答とされている(参考資料:第102回薬剤師国家試験 試験問題正答 https://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-11120000-Iyakushokuhinkyoku/20170626-7.pdf )選択肢3(問102-131-3)、選択肢5(問102-131-5)について設問の記述と関連する論点の概要を解説します。選択肢3(問102-131-3)は、o-トルイジン(o-toluidine|IUPAC名:2-methylaniline)です。問102-131では、染料などに使用される芳香族アミンの代謝的活性化と膀胱がんの発現に関する理解が問われました。福井県の化学工場において、o-トルイジンを取り扱う業務に従事していた労働者に発症した膀胱がんの労災請求(7件)があり、この災害事例について、業務が原因かどうか(労災認定)を判断するため、厚生労働省は、国際的な報告や疫学調査結果などを分析・検討し報告書にまとめました(2016(平成28)年12月21日提出)。厚生労働省の「芳香族アミン取扱事業場で発生した膀胱がんの業務上外に関する検討(労災認定に関する検討)」の事案です。この事案に関する報告書を受け、福井県の労災認定に関する厚生労働省からの指示があり、また、職場における化学物質管理において、o-トルイジン(o-toluidine)は、労働安全衛生法の特定化学物質/特定第2類物質・特別管理物質に追加されました(政令改正:2017(平成29) 年1月施行)。当該の政令改正の1か月後、第102回薬剤師国家試験は、平成29年2月25日、26日に実施され、この論点(染料などの工業原料o-トルイジンによる化学工場での膀胱がん)が問われています。薬剤師国家資格要件に対する適合性を検出する目的としては、この時点で労働災害と関連してo-トルイジン(o-toluidine)と膀胱がんに関する論点の理解を求めるのは、作問時点では審議段階であったことが推察され、職能を検出する問題としては時期尚早で、適切さに対する疑問が生じることは否めないと思われます。コアカリキュラムの中での習得を想定すると、あまりにもオンタイムなトピックです。化学物質の発がん性に起因する労働災害認定は、公衆衛生において重大なテーマなので、o-トルイジンは知っておくべき化学物質ですが、タイミングとして、改正の1~2年後、第103回または第104回薬剤師国家試験で、はじめて出題して習得・周知徹底を問うのが妥当です。
選択肢5(問102-131-5)は、ベンジジン(benzidine|IUPAC名:4-(4-aminophenyl)aniline)です。労働安全衛生法第55条(製造等の禁止)、および、労働安全衛生法施行令第16条(製造等が禁止される有害物等)第1項第2号に記載されているいわゆる「製造等が禁止される有害物等」にあたります。試験研究目的以外での製造が禁止されていますから、日本において、また、諸外国においても(参考資料:Benzidine. IARC Monographs 100F: 53-63 https://monographs.iarc.fr/wp-content/uploads/2018/06/mono100F-7.pdf )、工業的な製造は、現在されなくなっています。設問に記載された「染料などの工業原料に使用され」ることはないですし、工業原料ではなく「製造等が禁止される有害物等」です。厚生労働省の「正答」では、「染料などの工業原料に使用され、N -水酸化により代謝的活性化されて膀胱がんの原因となるのはどれか。」という選択問題に対して、選択肢5は正解とされていますが、問102-131の設問の表現は、現在、染料などの工業原料として使用されている印象を与えるので、ベンジジンを正答として選ばせることは適切ではないように思います。特に、労働安全衛生法の理解が要件とされている衛生の問題で、労働安全衛生法における区分を間違うことは望ましいことではないです。
労働安全衛生法|(製造等の禁止)第五十五条 黄りんマツチ、ベンジジン、ベンジジンを含有する製剤その他の労働者に重度の健康障害を生ずる物で、政令で定めるものは、製造し、輸入し、譲渡し、提供し、又は使用してはならない。ただし、試験研究のため製造し、輸入し、又は使用する場合で、政令で定める要件に該当するときは、この限りでない。(出典:e-Gov|労働安全衛生法 第55条 http://elaws.e-gov.go.jp/search/elawsSearch/elaws_search/lsg0500/detail?lawId=347AC0000000057 )
次回は、問102-131を、4つのテーマに分けて解説します。
目次|
テーマ1. 芳香族アミン取扱事業場で発生した膀胱がん / 経緯|
テーマ2. 膀胱がんの有害因子 / 芳香族アミン|
テーマ3. o-トルイジン / 発がんメカニズム|
テーマ4. ベンジジン / 発がんメカニズム|
(その2につづく。。|2018/12/04 AM 07:00公開予定!次回もお楽しみに。)
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(1)
(2)
ポイント|
厚生労働省「【A】取扱事業場で発生した【B】の業務上外に関する検討会」は、【C】、【B】と【D】との関連について、現時点での医学的知見を報告書として取りまとめ、以下の通り結論した。【D】のばく露業務に【E】以上従事した労働者に発症した【B】は、潜伏期間が【E】以上認められる場合は、業務が相対的に有力な原因となって発症した可能性が高い。一方、従事期間または潜伏期間が【E】に満たない場合は、【F】などを勘案して、業務と【B】との関連性を検討する。
ポイント|
【B】の有害因子としては、【G】が最も重要な危険因子であり、男性の【B】の50%、女性の【B】の30%に関与しているとされる。また、【G】者は非【G】者に比較して【B】の発症リスクが【H】高く、発がん物質として【I】に含まれる【A】の一種および【J】種が膀胱発がんに影響を与えると考えられる。【K】で使用実績があった【A】のうち、【D】は、【L】が、【B】を引き起こすとして、2012 年に発がん性分類【M】と評価している。
ポイント|
【D】は肝【N】により【O】の【P】を受け、N-ヒドロキシ-【D】に代謝されて腎臓でろ過され膀胱腔内の尿に蓄積される。膀胱内でN-ヒドロキシ-【D】は【Q】(NAT1)によりO-【R】を受け、N-アセトキシ-【D】が生成され、【S】の【T】が生成されてDNAに結合しDNAを損傷します。一方、【N】2E1は、【D】の芳香環【P】に関与し、【U】を形成し、【Q】(NAT2)の触媒によりN-【R】をうけて、N-アセチル-【U】となったのち、硫酸抱合体およびグルクロン酸抱合体として尿中に排泄される。一方、抱合されなかったN-アセチル-【U】から、酸化を受けやすく反応性の高い【V】が形成され、酸化還元サイクルを経て【J】を生成しDNAを損傷する。なお、染色を行う【K】などの【W】等の疫学研究から、【D】取扱作業従事者における【D】ばく露は【B】発症の有力な原因と考えられ、ばく露開始から 【E】以上経過した後、【B】を発症するものと考えられる。
ポイント|
【X】の代謝物であるN-アセチル【X】は肝臓でN-【Y】を受け、N-アセチル【X】N’-グルクロニドを形成したのち、腎ろ過により膀胱腔内の尿に蓄積される。尿中N-アセチル【X】N’-グルクロニドは、酸に不安定であり、酸性下、尿中でN-アセチル【X】に再度変換され、膀胱上皮【Z】により代謝的活性化を受け、DNA付加体を形成し、最終的に腫瘍発生に寄与する。なお、【K】などの【W】等の疫学研究から、【X】取扱作業従事者における【X】ばく露は【B】発症の有力な原因と考えられる。
A. 芳香族アミン
B. 膀胱がん
C. 2016(平成28)年12月
D. o-トルイジン
E. 10年
F. 作業内容、ばく露状況、発症時の年齢、既往歴の有無
G. 喫煙
H. 約4倍
I. タバコの煙
J. 活性酸素
K. 化学工場
L. IARC(国際がん研究機関:International Agency for Research on Cancer)
M. グループ 1(ヒトに対して発がん性がある:carcinogenic.)
N. CYP
O. アミノ基
P. 水酸化
Q. N-アセチル転移酵素
R. アセチル化
S. 求電子性
T. ニトレニウムイオン
U. 4-アミノ-メタ-クレゾール
V. キノンイミン誘導体
W. 後ろ向きコホート
X. ベンジジン
Y. グルクロン酸抱合
Z. プロスタグランジンHシンターゼ(PHS)
では、問題を解いてみましょう!すっきり、はっきりわかったら、合格です。
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