2018/11/25 10:00
第103回薬剤師国家試験|薬学理論問題 / 問130 Q. 平成26年の特定化学物質等障害予防規則(特化則)の改正により、クロロホルムが特定化学物質に指定され、ベンゼンなどの発がん物質と同様の管理が必要となった。クロロホルムを扱う作業者の労働衛生管理に関する記述のうち、正しいのはどれか。
選択肢
1 作業者の健康を管理するため、特化則に基づく定期的な健康診断を実施する必要がある。
2 作業場に排気装置を設置すれば、作業環境中のクロロホルム濃度を定期的に測定する必要はない。
3 クロロホルムの発がん性を踏まえて、作業者の作業記録、健康診断の記録の保存期間は5年間とされている。
4 作業場には、物質名、有害作用、取扱い上の注意、保護具の装着などの掲示を行う必要がある。
5 クロロホルムへの曝露により、作業者の尿中へのメチル馬尿酸の排泄量が増加する。
(論点:労働安全衛生法)
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松廼屋|論点解説 薬剤師国家試験対策ノート問103-130【衛生】論点:労働安全衛生法 / 特化則2
こんにちは!薬学生の皆さん。BLNtです。解説します。第103回薬剤師国家試験 問130(問103-130)は、薬学理論問題の衛生から、労働安全衛生法施行令(政令、原文:e-Gov|http://elaws.e-gov.go.jp/search/elawsSearch/elaws_search/lsg0500/detail?openerCode=1&lawId=347CO0000000318_20170803_429CO0000000218)および特定化学物質障害予防規則(特化則、原文:e-Gov|http://elaws.e-gov.go.jp/search/elawsSearch/elaws_search/lsg0500/detail?lawId=347M50002000039)の改正に関する理解を問う問題です。論点として、労働基準/安全・衛生から「職場における化学物質対策」が問われました。発がん性物質であるクロロホルムを扱う作業者の労働衛生管理を問う問題です。
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問103-130は、政令等の改正の知識が無くても、ベンゼンが「発がん性を踏まえた措置」が必要な化学物質として、労働安全衛生法における特定化学物質 / 第2類物質(労働安全衛生法施行令/別表第三第二号)に分類されており、特定化学物質 / 第2類物質は、職場においてどのような対策が必要な化学物質なのかを知っていればアプローチできる問題です。ただし、厳密には、クロロホルムほか9物質は、政令等の改正によって、ベンゼン(特定化学物質(第2類物質) / 特定第2類物質)ではなく、エチルベンゼンと同じ「特定化学物質(第2類物質) / 特別有機溶剤等」の分類に移行したので、職場の化学物質対策の区分はエチルベンゼンと同様の特別有機溶剤等の区分になります。政令等の改正の理解を問う論点からは、エチルベンゼンと同じ区分であることに着目すべきで、特定化学物質(第2類物質)であっても区分の異なるベンゼンとの規制との相似を問う問題ではないように思います。詳細には、設問にある特定化学物質障害予防規則の改正(DDVPおよびクロロホルムほか9物質に係る規制の追加 / 2014(平成26)年11月)に関しては、厚生労働省のホームページ(HP)(厚生労働省|平成26年11月の特定化学物質障害予防規則・作業環境測定基準等の改正(DDVPおよびクロロホルムほか9物質に係る規制の追加) https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000057700.html )に情報がまとまっていました。上記、厚生労働省HPに掲載の「改正政省令の概要PDF https://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-11300000-Roudoukijunkyokuanzeneiseibu/gaiyou_DDVPetc.pdf 」に概要が、また、「厚生労働省|特定化学物質障害予防規則等を改正 https://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-11300000-Roudoukijunkyokuanzeneiseibu/0000059074.pdf 」に改正による物質ごとの主な規定の適用(一覧)が、また、PowerPoint教育資料「クロロホルムほか9物質関係特定化学物質障害予防規則等関係法令改正説明会資料(クロロホルム他9物質を中心に)」に解説がありました。上記、厚生労働省HPの資料を参考に、問103-130を5つのテーマにわけて解説します。第1回は、テーマ1.-テーマ2.について解説します( https://matsunoya.thebase.in/blog/2018/11/24/183000 )。第2回は、テーマ3.-テーマ5.について解説します( https://matsunoya.thebase.in/blog/2018/11/25/100000 )。
目次|
テーマ1. 改正対象の化学物質および改正の経緯|
テーマ2. 特殊健康診断|
テーマ3. 特殊健康診断 / 検査対象|
テーマ4. 作業環境測定|
テーマ5. 特別有機溶剤等 特別管理物質 / 掲示|
解説|
テーマ3. 特殊健康診断 / 検査対象|
解説します。メチル馬尿酸に関しては、J-Stage|許容濃度等の勧告(2018年度)産業衛生学雑誌,60(5)116-148, 2018 DOI https://doi.org/10.1539/sangyoeisei.S18001 に、化学物質の生物学的モニタリングの測定対象と生物学的許容値が掲載されていたので参考になると思います。
メチル馬尿酸は、キシレンの尿中代謝物で、キシレンの生物学的モニタリングの測定対象です。労働の場において、有害因子に曝露している労働者の尿、血液等の生体試料中の当該有害物質濃度、その有害物の代謝物濃度、または、予防すべき影響の発生を予測・警告できるような影響の大きさを測定することを「生物学的モニタリング」といいます。「生物学的許容値」とは、生物学的モニタリング値がその勧告値の範囲内であれば、ほとんどすべての労働者に健康上の悪い影響がみられないと判断される濃度です。
一方、馬尿酸は、トルエンの尿中代謝物ですが、トルエンの生物学的モニタリングの測定対象は、血液および尿中の未変化体(トルエン)です。トルエンの代謝については、安全委員会|食品安全総合情報システム>化学物質・汚染物質https://www.fsc.go.jp/fsciis/evaluationDocument/list?itemCategory=003トルエンhttps://www.fsc.go.jp/fsciis/evaluationDocument/show/kya20030703015 通知文書に詳細がありました。上記、通知文書によれば、トルエンはヒトにおいて、肝臓ミクロソームmixed-functionoxidase系によりベンジルアルコールに迅速に転換され、続いて安息香酸となってグリシンまたはグルクロン酸と抱合し、馬尿酸またはグルクロン酸ベンゾイルとして尿中に排泄されます。少量は、o-またはp-クレゾールに代謝されます。ヒトにおいて、吸収されたトルエンの15-20%は、肺から排泄され、腎臓からは馬尿酸として60-70%が排泄されます。
なお、クロロホルムの代謝については、厚生労働省|有害性評価書 クロロホルム https://www.mhlw.go.jp/file/05-Shingikai-11201000-Roudoukijunkyoku-Soumuka/0000087455.pdf によれば、ほ乳類においては、クロロホルムは経口、吸入、経皮で吸収され、代謝、排泄されます。クロロホルムは血流により全身に分布し、脂溶性であるため、脂肪組織と脳に優先的に分布します。クロロホルムの経口投与では、吸収率はほぼ 100%で、腸管からの吸収は迅速であり、経口摂取量の 90%が8時間以内に、呼気から、未変化のクロロホルムまたは二酸化炭素として排出されます。
テーマ4. 作業環境測定|
解説します。労働安全衛生法第2条(定義)第4号によれば、「作業環境測定」とは「作業環境の実態を、は握するため、空気環境その他の作業環境について行うデザイン、サンプリング及び分析(解析を含む。)をいう。」と規定されています。労働安全衛生法施行令第21条において作業環境測定を行うべき作業場とされている業務で作業環境測定を実施します。作業環境測定については、厚生労働省|職場のあんぜんサイト http://anzeninfo.mhlw.go.jp/index.html 安全衛生キーワード / 作業環境測定 http://anzeninfo.mhlw.go.jp/yougo/yougo17_1.html に詳しい記載がありました。上記HPによれば、作業環境中には、ガス・蒸気・粉じん等の有害物質や、騒音・放射線・高熱等の有害エネルギーが存在することがあり、これらが働く人々の健康に悪影響を及ぼすことがあり、有害因子による職業性疾病を予防するために、これらの因子を職場から除去するか一定のレベル以下に管理することが必要です。労働安全衛生法第65条第1項に、「事業者は、有害業務を行う屋内作業場その他の作業場(政令で定める)について、必要な作業環境測定(厚生労働省令で定める)を行いその結果を記録しておかなければならない」との規定があります。この規定により、事業者が作業環境測定を実施しなければならない作業場は、労働安全衛生法施行令第21条では次の10種類の作業場があります。有機溶剤(第1種有機溶剤等及び第2種有機溶剤)または特定化学物質(第1類物質及び第2類物質)を製造・取り扱う屋内作業場等は、作業環境測定を実施しなければいけない作業場とされています。
作業環境測定を実施しなければならない作業場
テーマ5. 特別有機溶剤等の特別管理物質 / 掲示|
掲示に関しては、政令等の改正に伴って、クロロホルムほか9物質には、特定化学物質(第2類物質)/ 特別有機溶剤等の特別管理物質としての掲示の規定が適用されました。具体的には、発がん性に関する有害性等の掲示として、名称・人体に及ぼす作用・取扱注意事項・使用すべき保護具の掲示(特化則第38条の8)が適用されました。なお、改正前から、従来の掲示である人体に及ぼす作用・取扱注意事項の掲示(特化則第38条の8 / 有機則第24条第1項準用)の規定はありました。
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1. 設問・参考資料・イントロダクション「改正対象の化学物質および改正の経緯」
2. 選択肢1. 特定化学物質 / 特殊健康診断
3. 選択肢2. 特定化学物質 / 作業環境測定、選択肢3. 記録の保存期間の延長等「発がん性を踏まえた措置」、選択肢4. 特殊健康診断 / 有機溶剤 代謝・排泄、選択肢5. 特別管理物質 / 掲示
ポイント|
【A】物質である【B】の【C】ほか9物質は、「【A】を踏まえた措置」を講ずる必要性から、2014(平成26)年の【D】等の改正によって、【E】 / 特別【B】等に移行され、【F】に追加されたことにより、【B】業務に限って、【G】測定が義務づけられたので、【G】中濃度を定期的に測定する必要がある。また、作業者の健康を管理するため、【H】(【I】)に基づく【J】を実施する必要がある。【E】 / 特別【B】等の【F】については、【K】の作成および【G】測定結果・【L】個人票・【K】の【M】保存の義務付け、【A】に関する掲示、記録の報告が規定されている。【A】に関する掲示としては、【N】の掲示(【I】第38条の8)が適用される。
なお、【C】の曝露により、【O】が排泄される。【P】は、【Q】の尿中代謝物であり、一方、【R】は、【S】の尿中代謝物である。
A. 発がん性
B. 有機溶剤
C. クロロホルム
D. 労働安全衛生法施行令
E. 特定化学物質(第2類物質)
F. 特別管理物質
G. 作業環境
H. 特定化学物質障害予防規則
I. 特化則
J. 定期的な健康診断(特殊健康診断)
K. 作業記録
L. 特定化学物質健康診断
M. 30年
N. 名称・人体に及ぼす作用・取扱注意事項・使用すべき保護具
O. 未変化体および二酸化炭素
P. メチル馬尿酸
Q. キシレン
R. 馬尿酸
S. トルエン
では、問題を解いてみましょう!すっきり、はっきりわかったら、合格です。
第103回薬剤師国家試験|薬学理論問題 / 問130 Q. 平成26年の特定化学物質等障害予防規則(特化則)の改正により、クロロホルムが特定化学物質に指定され、ベンゼンなどの発がん物質と同様の管理が必要となった。クロロホルムを扱う作業者の労働衛生管理に関する記述のうち、正しいのはどれか。
選択肢
1 作業者の健康を管理するため、特化則に基づく定期的な健康診断を実施する必要がある。
2 作業場に排気装置を設置すれば、作業環境中のクロロホルム濃度を定期的に測定する必要はない。
3 クロロホルムの発がん性を踏まえて、作業者の作業記録、健康診断の記録の保存期間は5年間とされている。
4 作業場には、物質名、有害作用、取扱い上の注意、保護具の装着などの掲示を行う必要がある。
5 クロロホルムへの曝露により、作業者の尿中へのメチル馬尿酸の排泄量が増加する。
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