2019/09/18 21:25

第104回薬剤師国家試験|必須問題 / 問1 Q. 親核種よりも原子番号が1つ小さい娘核種を生成する放射壊変はどれか。
1.  α壊変
2.  β-壊変
3.  β+壊変
4.  γ転移(核異性体転移)
5.  自発核分裂
(論点:放射線 / 壊変・核分裂)
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松廼屋|論点解説 薬剤師国家試験対策ノート問104-1【物理】論点:放射線 / 壊変・核分裂

こんにちは!薬学生の皆さん。BLNtです。解説します。薬剤師国家試験の物理から、放射線を論点とした問題です。第104回薬剤師国家試験【物理】必須問題の問1(問104-1|論点:放射線 / 壊変)では、放射壊変の分類およびそれぞれの特徴の理解を問われました。選択肢から正答を選ぶ必須問題でした。

問104-1を解説します。苦手意識がある人も、この機会に放射線の基礎を一緒に完全攻略しましょう!

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目次|

1|放射線 / 壊変
2|放射線 / 種類
3|原子の構造と周期律
4|β壊変
5|α壊変
6|γ転移(核異性体転移)
7|自発核分裂

参考資料|

文献1. 原子力百科事典ATOMICA https://atomica.jaea.go.jp/
文献2. 環境省のホームページ(HP)(環境省|放射線による健康影響等に関する統一的な基礎資料(平成29年度版)の掲載について(お知らせ) http://www.env.go.jp/chemi/rhm/h29kisoshiryo.html 放射線による健康影響等に関する統一的な基礎資料 平成29年度版

1|放射線 / 壊変

解説します。文献1の 原子力用語辞典 壊変 https://atomica.jaea.go.jp/database_dic.html によれば、壊変(disintegration)とは、不安定な原子核が放射線を放出、あるいは、自発的に核分裂を起こし、別種または安定な原子核に変化することを意味します。崩壊(decay)ともいいます。壊変によって生じた核種を娘核種、壊変前の核種を親核種と呼びます。娘核種が壊変した核種を親核種から見て孫核種と呼ぶことがあり、娘核種と合わせて子孫核種と呼びます。核種は、壊変を繰り返しエネルギー的に安定な核種へと変化します。自然に起こる自発的な壊変と、照射により誘導された人工的な壊変があります。壊変の際に放射線を放出します。原子核がα線、β線を放出すれば別の核種に、また、γ線を放出すれば安定な原子核に変わります。放出する放射線によって、α壊変(α線放出)、β壊変(β(-)またはβ(+)放出)、γ壊変(γ線放出)および自発核分裂(2つの核と数個の中性子放出)と区分する場合があります。

2|放射線 / 種類

解説します。文献2 第1章 放射線の基礎知識 1.3 放射線 放射線はどこで生まれる? https://www.env.go.jp/chemi/rhm/h29kisoshiryo/h29kiso-01-03-01.html によれば、α線とは、原子核からヘリウム原子核(陽子2個と中性子2個)が高速で飛び出したものです。一方、β線とは、原子核から電子が飛び出したものです。ヘリウム原子核は、電子の約7,300倍の重さです。α線、β線を放出した直後の原子核は、通常、まだエネルギーが高く不安定な状態なので、γ線を放出して安定した状態になろうとします。γ線は、原子核から放出される電磁波です。また、γ線を放出しない核種も存在します。他方、原子核が核分裂する際に運動エネルギーをもって中性子が原子核の外へ飛び出すものを中性子線と言います。

3|原子の構造と周期律

解説します。文献2 第1章 放射線の基礎知識 1.2 放射性物質 原子の構造と周期律 https://www.env.go.jp/chemi/rhm/h29kisoshiryo/h29kiso-01-02-01.html によれば、原子は、原子核とその周りをまわる電子から構成されています。原子核は、プラスの電荷をもつ陽子と電荷をもたない中性子で構成されており、原子の化学的性質、つまり元素の種類は、陽子数(原子番号)で決まります。

例えば炭素は陽子が6個の元素ですが、中性子がそれぞれ5個、6個、7個および8個の炭素が存在します。これらは、陽子が6個(原子番号=6)なので化学的性質(元素名)は同じ炭素です。これらの原子を区別する場合の呼称は、元素名に質量数(陽子数+中性子数)をつけて呼びます。例えば、炭素の場合、炭素11、炭素12、炭素13、炭素14と呼称します。自然界で最も多い炭素原子は、炭素12です。一方、炭素14は、陽子数が6で中性子数が8です。炭素14は窒素14に中性子が当たり陽子を追い出した自然界に存在する放射性物質です。炭素14は、陽子数が6、中性子数が8であって、エネルギー的に不安定です。炭素14の原子核の中性子陽子に変わると、陽子と中性子がそれぞれ7個になって安定な原子となります。この時、エネルギーが電子として放出されますが、これがβ線です。炭素14はβ線を放出し、陽子数が1つ増加して7となった元素(窒素)へとβ-壊変してエネルギー的に安定した原子となります。

文献2 第1章 放射線の基礎知識 第1章 放射線の基礎知識 1.2 放射性物質 原子核の安定・不安定 https://www.env.go.jp/chemi/rhm/h29kisoshiryo/h29kiso-01-02-02.html によれば、同じ原子番号(陽子数)の原子で中性子数が異なる原子核の関係を同位体と言います。同位体は、放射性壊変を起こして放射線を放出する放射性同位体と放射線を出さずに原子量が変化しない安定同位体に分類されます。放射性物質が、不安定な状態を解消するために放出する放射線には、α線、β線、γ線があります。α線およびβ線放出後は元素が変化し、他方、γ線放出の際には、元素は変化しません。放射性同位体において、どの放射線が放出されるかは、その放射性同位体ごとに決まっています。原子力発電所の事故が発生した場合には、ウラン235の核分裂により生成されたセシウム134、セシウム137が環境中に放出されます。セシウム134、セシウム137はβ線およびγ線を放出します。
水素原子のほとんどは、原子核が陽子数1のH-1です。また、水素には、陽子数1+中性子数1のH-2(重水素)および陽子数1+中性子数2のH-3(トリチウム)が存在します。このうち、放射性同位体は、トリチウムのみです。トリチウムは、β-壊変によってβ線を放出しヘリウム-3(陽子数2+中性子数1)になります。

第1章 放射線の基礎知識 1.2 放射性物質 親核種・娘核種 https://www.env.go.jp/chemi/rhm/h29kisoshiryo/h29kiso-01-02-06.html によれば、陽子と中性子の数によって区分される原子核の種類を、核種と呼びます。炭素原子の場合、炭素12と炭素14は、異なる核種です。炭素14は、エネルギー的に不安定なため、放射性核種と呼ばれます。放射性核種が放射線を放出して異なる核種へと変化することを、壊変と呼びます。

4|β壊変

β壊変について、解説します。文献1から、放射線利用の基礎>放射線の種類>β壊変 (08-01-01-06) https://atomica.jaea.go.jp/data/detail/dat_detail_08-01-01-06.html および 軌道電子捕獲 https://atomica.jaea.go.jp/dic/detail/dic_detail_821.html を参考として引用します。β壊変には、親核種から電子(β-)が放出されるβ-壊変陽電子(β+)が放出されるβ+壊変、あるいは親核種に核外の軌道電子が捕獲される軌道電子捕獲の3つの現象があります。β壊変では、核種の質量数は変化しない一方、β-壊変では、中性子が陽子へと変換されるので原子番号は1つ増加し、β+壊変または軌道電子捕獲では陽子が中性子へと変換されるので原子番号が1つ減少します。放出される電子エネルギーはある範囲にわたって連続的に分布します。また、β壊変の場合、γ線の放出を伴う場合が多いです。

β-壊変の例としては、例えば、下記の壊変があります。
64Cu → β- + 64Zn
24Na → β- + 24Mg
β+壊変の例としては、例えば、下記の壊変があります。
11C → β+ + 11B
軌道電子捕獲は、陽電子を放出するかわりに原子核が軌道電子を吸収して陽子が中性子に変わる現象です。湯川秀樹と坂田昌一によって最初に予言されました(1935年)。原子の中の原子核が軌道電子を捕獲し、核内の陽子がこれと反応して中性子に変わり、原子番号が1つ小さい、つまり陽子数が1つ少なく原子番号が1つ減少した質量数は同じ別種の原子核に変わる現象です。その際、ニュートリノが放出され、また、残りの軌道電子は余剰エネルギーをそれらの電子に特有のX線として放出し新しい原子は安定します。軌道電子としては核に最も近いK 軌道の電子であるK電子を捕獲する場合が最も確率が高く、L電子、M電子の順に確率が減少します。

5|α壊変

α壊変について、解説します。文献1から、放射線利用の基礎>放射線の種類>α壊変 (08-01-01-05) https://atomica.jaea.go.jp/data/detail/dat_detail_08-01-01-05.html を参考として引用します。α壊変は原子番号Z、質量数Aの原子核がα粒子を放出して原子番号Z-2、質量数A-4の原子核に変わる過程をいいます。つまり、陽子2個、中性子2個で構成されたα粒子が放出され、陽子が2個減少して、原子番号が2つ小さい原子核が残り、中性子も2個減少するので質量数は4減少します。1909年Ernest RutherfordとThomas Roydsによって、α粒子がヘリウム(4He)原子核であることが証明されました。半減期は、214Po → 210Pbの1.64×10^-4秒、238U → 234Thの4.47×10^+9年などそれぞれの核種に固有です。

6|γ転移(核異性体転移)

γ転移について解説します。文献1から、核異性体 https://atomica.jaea.go.jp/dic/detail/dic_detail_1321.html を参考として引用します。核異性体(nuclear isomer)は異性核とも呼ばれ、同じ原子番号同じ質量数をもった原子核で、異なったエネルギー状態のものをいいます。高エネルギー状態(励起状態)の原子核は、通常極めて短い半減期でγ崩壊して低エネルギー状態に遷移しますが、γ崩壊の選択則のため、比較的長い半減期の励起状態が存在し、一種の放射性核種として扱われる場合があり、そのような比較的長い半減期の励起状態にある原子核を核異性体といいます。励起状態が準安定状態であることを表すために、添字mを付けて区別します。例えば半減期4時間でγ崩壊するBr-80mは、Br-80の核異性体です。

7|自発核分裂

自発核分裂について、解説します。文献1から、環境放射能の安全研究>安全評価研究>地球環境に存在する核分裂生成物 (06-03-05-09) https://atomica.jaea.go.jp/data/detail/dat_detail_06-03-05-09.html および核分裂 https://atomica.jaea.go.jp/dic/detail/dic_detail_760.html 、自発核分裂 https://atomica.jaea.go.jp/dic/detail/dic_detail_332.html を参考として引用します。核分裂(nuclear fission)は核反応の一種で、ウランやプルトニウムなどの重い原子核がほぼ同等の質量をもつ2つ(まれに3つ以上)の原子核(核分裂片)に分裂する現象をいいます。中性子、陽子、γ線、β線の吸収などによって誘起される誘起核分裂と自然に起きる自発核分裂とに分類されます。中性子の吸収による核分裂では1核分裂当たり約2億電子ボルト(=200 MeV)のエネルギーを放出し、新たに2〜3個の中性子の放出を伴います。この核分裂によって生まれる中性子により次々に起こる核分裂の連鎖反応を利用して莫大なエネルギーを取り出すのが原子炉です。
他方、自発核分裂は、外部から中性子などの衝撃や外部からのエネルギーを加えることなく、原子核が自然に核分裂を起こす核分裂現象で、原子番号Z≧93の超ウラン元素は自発核分裂の発生確率が高いです。自発核分裂でも高速の中性子が放出されます。人工自発核分裂性核種252Cf(カリホルニウム252)は、原子炉起動用中性子源および中性子ラジオグラフィなど、各種の用途に広く用いられます。

地球を構成する重い元素は、太陽系形成の原料元素を供給した超新星爆発の際のrプロセスにより生成したと考えられています。その瞬時には非常に重い核種(〜質量260)も生成し、不安定な核種はその後の様々な壊変を経て安定な核種に変じたとされています。従って、核分裂生成物と定義される核種は、地球誕生時に既に構成物として存在した始原核分裂生成物と、重い核種の自発核分裂反応と中性子誘起の核分裂反応により生成した核分裂生成物が存在し、また、20世紀以降の原子力利用活動により追加された人工核分裂生成物も現在は存在します。寿命の永い始原元素であるUとThは主に地殻中に濃縮されて存在し、これらの重い核種は、自発核分裂と中性子誘起の核分裂反応により核分裂生成物を生成しています。自発核分裂核種Th、U、Puとその自発核分裂半減期を図に示します。

出典:文献1|地球環境に存在する核分裂生成物

YouTube|※論点解説動画で予習・復習ができます。
YouTube再生リスト|走る!「衛生」論点:放射線 https://www.youtube.com/playlist?list=PLuPATLvMiAKpbxWUstH1tikh2sy8gFKpD
※物理問題ですが論点:放射線に入っています。
※再生リストから順番に連続してご覧いただくことができます。



ポイント|

原子番号Z、質量数Aの原子核から【A】が放出され、原子番号【B】、質量数【C】の原子核に変わる過程を【D】という。つまり、【E】で構成された【A】が放出され、【R】が【F】減少して、原子番号が【G】小さい原子核が残り、【Q】も【F】減少するので質量数は【H】減少する。1909年Ernest RutherfordとThomas Roydsによって、【A】が【I】(【H】【J】)原子核であることが証明された。半減期は、【K】である。

【L】には、親核種から【M】が放出される場合、【N】が放出される場合、あるいは親核種に核外の【O】が捕獲される場合(【O】捕獲)の3つの現象がある。【L】では、核種の質量数は【P】一方、β-壊変では【Q】が【R】へと変換されるので原子番号は【S】し、β+壊変または【O】捕獲では【R】が【Q】へと変換されるので原子番号が【T】する。【L】の場合、【U】の放出を伴う場合が多い。
【O】捕獲は、【N】を放出するかわりに軌道をまわる【M】を原子核が吸収して【R】が【Q】に変わる現象で、湯川秀樹と坂田昌一によって最初に予言された(1935年)。原子の中の原子核が【O】を捕獲し、核内の【R】がこれと反応して【Q】に変わり、【R】の数が1つ少なく原子番号が【T】した質量数は【P】別種の原子核に変わる現象である。その際、【V】が放出され、また、残りの【O】は余剰エネルギーをそれらの【M】に特有の【W】として放出し新しい原子は安定する。【O】としては核に最も近い【X】 軌道の【M】である【X】【M】を捕獲する場合が最も確率が高く、【Y】【M】、【Z】【M】の順に確率が減少する。

A. α粒子
B. Z-2
C. A-4
D. α壊変
E. 陽子2個、中性子2個
F. 2個
G. 2つ
H. 4
I. ヘリウム
J. He
K. それぞれの核種に固有
L. β壊変
M. 電子(β-)
N. 陽電子(β+)
O. 軌道電子
P. 変化しない
Q. 中性子
R. 陽子
S. 1つ増加
T. 1つ減少
U. γ線
V. ニュートリノ
W. X線
X. K
Y. L
Z. M

【a】は、【b】をもった原子核で、【c】のものをいう。【d】の原子核は、通常極めて短い半減期で【e】して【f】に遷移するが、【e】の選択則のため、比較的長い半減期の【d】が存在し、一種の放射性核種として扱われる。そのような比較的長い半減期の【d】にある原子核を【a】という。【d】が準安定状態であることを表すために、添字【g】を付けて区別する。例えばBr-80【g】は、Br-80の【a】である。

【h】は核反応の一種で、【i】や【J】などの重い原子核がほぼ同等の質量をもつ【K】の原子核(【h】片)に分裂する現象をいう。【Q】、【R】、【U】、【l】の吸収などによって誘起される誘起【h】と自然に起きる自然【h】とに分類される。【Q】の吸収による【h】では1【h】当たり約【m】eVの【n】を放出し、新たに2〜3個の【Q】の放出を伴う。他方、自発【h】は、外部から【Q】などの衝撃や外部からの【n】を加えることなく、原子核が自然に【h】を起こす現象で、原子番号Z≧【o】の超【i】元素は自発【h】の発生確率が高い。自発【h】でも高速の【Q】が放出される。

a. 核異性体(nuclear isomer, 異性核)
b. 同じ原子番号と同じ質量数
c. 異なったエネルギー状態
d. 高エネルギー状態(励起状態)
e. γ崩壊
f. 低エネルギー状態
g. m
h. 核分裂(nuclear fission)
i. ウラン(U)
j. プルトニウム(Pu)
k. 2つ(まれに3つ以上)
l. β線
m. 200M
n. エネルギー
o. 93

では、もう一度、問104-1を解いてみてください。すっきり、はっきりわかれば、合格です!
第104回薬剤師国家試験|必須問題 / 問1 Q. 親核種よりも原子番号が1つ小さい娘核種を生成する放射壊変はどれか。
1.  α壊変
2.  β-壊変
3.  β+壊変
4.  γ転移(核異性体転移)
5.  自発核分裂
(論点:放射線 / 壊変・核分裂)

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更新日:2019.09.18 制作:滝沢幸穂(Yukiho.Takizawa)phD ■Facebook プロフィール https://www.facebook.com/Yukiho.Takizawa

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