2019/07/29 17:45
第98回薬剤師国家試験|薬学理論問題 / 問133 Q. カドミウムに関する記述のうち、正しいのはどれか。
1. 現在、我が国で収穫された米からカドミウムは検出されなくなっている。
2. ヒトにおけるカドミウムの消化管吸収率は、およそ90%である。
3. 体内に吸収されたカドミウムは、メタロチオネインと結合することにより毒性が高まる。
4. カドミウムは、国際がん研究機関(IARC)において、ヒトに対する発がん性がある化学物質に分類されている。
5. カドミウムの主要な慢性毒性は、腎近位尿細管障害である。
(論点:有害化学物質 / カドミウム)
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松廼屋|論点解説 薬剤師国家試験対策ノート問98-133【衛生】論点:有害化学物質 / カドミウム
こんにちは!薬学生の皆さん。BLNtです。解説します。薬剤師国家試験の衛生から、食品の有害化学物質を論点とした問題です。第98回薬剤師国家試験【衛生】薬学理論問題の問133(問98-133|論点:有害化学物質 / カドミウム)では、有害化学物質から、カドミウムについての理解を問われました。選択肢の記述の正誤を選ぶ薬学理論問題でした。
問98-133は、選択肢ごとにテーマ(カドミウム / 汚染・薬物動態・メタロチオネイン・毒性 発がん性 慢性毒性)が異なりますので、選択肢ごとに解説します。苦手意識がある人も、この機会に有害化学物質の基礎を一緒に完全攻略しましょう!
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2019/07/29 17:45 公開 https://matsunoya.thebase.in/blog/2019/07/29/174500
目次|
1|問98-133-1 論点:有害化学物質 カドミウム / 汚染
2|問98-133-2 論点:有害化学物質 カドミウム / 薬物動態
3|問98-133-3 論点:有害化学物質 カドミウム / メタロチオネイン
4|問98-133-4 論点:有害化学物質 カドミウム / 毒性 / 発がん性
5|問98-133-5 論点:有害化学物質 カドミウム / 毒性 / 慢性毒性
1|論点:有害化学物質 カドミウム / 汚染 Q1. 現在、我が国で収穫された米からカドミウムは検出されなくなっている。【正・誤】
解説します。選択肢1(問98-133-1)では、有害化学物質であるカドミウムによる食品の汚染についての理解を問われました。厚生労働省|「食品に含まれるカドミウム」に関するQ&A http://www.mhlw.go.jp/houdou/2003/12/h1209-1c.html Q1-Q4によれば、カドミウムは天然に存在する重金属です。鉛・銅・亜鉛などの金属とともに鉱物中や土壌中などに存在し千年以上前から鉱山開発など地中から掘り出されてきました。環境中のカドミウムが農畜水産物に蓄積し、それらを食品として摂取することで、カドミウムが体内に吸収され、主に腎臓に蓄積します。カドミウム濃度の高い食品を長期的に摂取することで、近位尿細管の再吸収機能障害により腎機能障害を引き起こす可能性があります。鉄欠乏の状態では、カドミウム吸収が増加します。カドミウム中毒としてイタイイタイ病があります。これは、高濃度のカドミウムの長期にわたる摂取に加えて、様々な要因(妊娠、授乳、老化、栄養不足等)が誘因となって生じたものと考えられています。低濃度のカドミウムの摂取とは状況が異なり、低濃度の摂取でイタイイタイ病が発症するとは考えられていません。日本には、全国各地に鉛・銅・亜鉛の鉱山や鉱床が多数あり、鉱山や鉱床に高濃度に含まれるカドミウムが、鉱山開発・精錬などの人の活動によって環境中へ排出されるなどの原因により一部地域の水田・土壌に蓄積されてきました。米など作物に含まれるカドミウムは、栽培する土壌に含まれるカドミウムが吸収され蓄積されたものです。
カドミウムは海水や海の底質中にも含まれており、貝類、イカやタコなどの軟体動物、エビやカニなどの甲殻類の内臓に蓄積されやすいことがわかっています。カドミウムは土壌・水など環境中に広く存在するため、多くの食品に含まれています。日本では米から摂取する割合が最も多く、日本人のカドミウムの1日摂取量の約4割は米から摂取されているものと推定されます。国立医薬品食品衛生研究所は、昭和52(1977)年度から毎年、日常食の汚染物質の摂取量調査を行っており、平成19(2007)年度の調査結果によれば、日本人の日常食からのカドミウムの1日摂取量は、21.1μg(成人の平均体重を53.3kgとすると2.8μg/kg 体重/週)であり、調査開始以降、経年変化はあるものの米の摂食量の低下などにより減少しています。2003年6月に開催された第61回FAO/WHO食品添加物専門家会議(Joint Expert Committee on Food Additives, JECFA)の報告書によれば、各国の調査に基づくカドミウムの平均的な摂取量は0.7 - 6.3μg/kg 体重/週、また、WHOが公表している世界の各地域の食品の消費量とカドミウム濃度から得られた地域ごとの平均的なカドミウム摂取量は2.8 - 4.2 μg/kg 体重/週となっており、日本人の摂取量は比較的低い状況です。
日本産米に含まれるカドミウムは平均して0.06 mg/kg(=0.06 ppm)でした(1997 - 1998年 旧食糧庁の全国実態調査結果)。米のカドミウム濃度が0.4 ppmを超える場合、それは鉱山からの排出などによって人為的に水田がカドミウムに汚染されていることが原因と考えられています。上記調査結果からは、そのような米の割合は全体の0.3%です。さらに最新の科学的根拠に基づく情報としては、農林水産省|我が国における農産物中のカドミウム濃度の実態 http://www.maff.go.jp/j/syouan/nouan/kome/k_cd/jitai_sesyu/01_inv.html によれば、農林水産省は、食品からのカドミウム摂取量を減らすため、農産物中のカドミウム低減対策に取り組んできました。その効果を検証するため、国産の米(平成21、22年度)、小麦(平成24 - 26年度)、大豆(平成23 - 25年度)及び野菜20品目(平成21、22年度)中のカドミウム濃度を調査しました。国産の米、小麦、大豆のカドミウム濃度を前回の調査結果(米:平成9 - 10年度、小麦・大豆:平成12 - 14年度)と比較したところ、農林水産省が推進し、都道府県や生産者の方々が実施しているカドミウム濃度低減対策が有効であることが確認されました。米については、前回調査(1997 - 1998年)の結果と今回調査(2009 - 2010年)の結果を比較すると、前回の調査では、コーデックス基準値でもある日本の基準値0.4 mg/kgを超える濃度のカドミウムを含む米が0.3 %存在しましたが、今回調査ではそのような米は存在しませんでした。米中のカドミウム濃度の分布は、図に示すように、前回調査に比べて今回調査では低濃度方向に移動したため、高濃度における頻度が低下しました。今回調査(2009 - 2010年)の平均値は、0.05 mg/kg(0.05 ppm)でした。
食品安全委員会|リスク評価結果の解説 http://www.fsc.go.jp/hyouka/risk_hyouka.html 「食品からのカドミウム摂取の現状に係る安全性確保について」に係る食品健康影響評価の通知文書および評価書[PDF] (2008) http://www.fsc.go.jp/hyouka/hy/hy-tuuchi-cadmium200703.pdf によれば、カドミウム(Cd)は、原子番号48、原子量 112.411、密度 8.65g/cm3(25℃)の銀白色の重金属で、土壌・水・大気中に広く分布しているため、ほとんどの食品中に環境由来のカドミウムが含まれます。日本人の食品からのカドミウム摂取量の実態については、1970 年代後半以降、大幅に減少してきており、耐容週間摂取量の 7μg/kg 体重/週よりも低いレベルにあります。近年、食生活の変化によって1人当たりの米消費量が 1962年のピーク時に比べて半減した結果、日本人のカドミウム摂取量は減少傾向であり、一般的な日本人における食品からのカドミウム摂取が健康に悪影響を及ぼす可能性は低いと考えられます。WHOによるGlobal Environmental Monitoring System(GEMS)の一環として、国立医薬品食品衛生研究所が地方衛生研究所と協力、食品中汚染物質のトータルダイエット・スタディ法(TDS法)による摂取量調査を実施した結果から、カドミウムの摂取量は、1970年代後半に46μg/人/日であったが、それ以降減少して2005年に22.3μg/人/日となったとのことで、1996年から2005年までの10年間の平均摂取量は、26.3µg/人/日であり、FAO/WHO合同食品添加物専門家会議(JECFA) が設定した暫定耐容週間摂取量(PTWI)の約50%です。また、2005年における14食品群からのカドミウム摂取量の割合は、米類由来46.5%、魚介類12.8%、野菜・海草類12.4%、雑穀・芋類12.4%、及び有色野菜類5.2%です。
現在、日本産米からカドミウムは検出されています。米食の減少が、近年の日本人のカドミウム摂取量の低下に反映されており、他方、日本人は米飯の摂取量が他の食材と比較して多いため、依然として、米類由来のカドミウムの割合が46.5%と高いことがわかります。
2|論点:有害化学物質 カドミウム / 薬物動態 Q2. ヒトにおけるカドミウムの消化管吸収率は、およそ90%である。【正・誤】
解説します。選択肢2(問98-133-2)では、有害化学物質であるカドミウムの薬物動態の理解を問われました。カドミウムのヒトにおける吸収が論点です。食品安全委員会の上記リスク評価書(2008) によれば、カドミウムの成人腸管吸収率は、ヒトボランティア実験における放射性同位元素の残存率と同じ2 - 8%とすることが妥当と考えられています。
3|論点:有害化学物質 カドミウム / メタロチオネイン Q3. 体内に吸収されたカドミウムは、メタロチオネインと結合することにより毒性が高まる。【正・誤】
選択肢3(問98-133-3)では、生体に吸収されたカドミウムへのメタロチオネインの影響が問われました。上記、食品安全委員会の評価書 (2008) 5.7 メタロチオネイン(MT)によれば、MT はシステイン残基が豊富な低分子量蛋白質で、亜型としてⅠ、Ⅱ、Ⅲ、Ⅳの 4種類が見いだされています。MT-Ⅰ、Ⅱは体内に広く存在し、2 価重金属イオン(カドミウム、亜鉛、銅など)で誘導合成されます。カドミウムの誘導合成能がもっとも高く、臓器では、肝・腎において誘導合成され、肝・腎において濃度が高いです。一方、MT-Ⅲと MT-IV は、それぞれ神経細胞と消化管の上皮細胞に存在するが、カドミウムにより誘導合成されません。
MT-I 及び II は①肝・腎細胞内でカドミウムと結合して遊離カドミウムによる毒性を抑制、②血液中で Cd-MT としてカドミウムを移送、③腸管上皮 MT はカドミウム吸収におそらく関与、④MT は胎盤細胞中に存在し、カドミウムの胎児移行を阻害する等の作用があります。MT とカドミウムとは配位結合をしており、MT が分解を受けると、遊離したカドミウムイオンによって腎障害が発生すると考えられます。以上のことから、体内に吸収されたカドミウムは、主に肝・腎細胞内でメタロチオネインと配位結合することにより毒性が抑制されると考えられ、メタロチオネインが分解されると、遊離したカドミウムの毒性が発現するものと考えられます。
4|カドミウム / 毒性 / 発がん性 Q5. カドミウムは、国際がん研究機関(IARC)において、ヒトに対する発がん性がある化学物質に分類されている。【正・誤】
解説します。有害化学物質カドミウムの毒性を論点とした問題です。選択肢4(問98-133-4)では、カドミウムの発がん性の理解が問われました。上記、食品安全委員会の評価書(2008)6.2.6 発がんによれば、今回リスク評価の対象としている一般環境におけるカドミウムの長期低濃度曝露では、明らかに発がん性があるとの結論を導き出すことは難しいと考察されました。一方、1993 年出版の国際がん研究機関(IARC) 文書では、カドミウムは「ヒトにおいて発がん性があると判断するために十分な証拠がある」(Group 1:Carcinogenic to humans)と分類されました。
農林水産省|国際がん研究機関(IARC)の概要とIARC発がん性分類について http://www.maff.go.jp/j/syouan/seisaku/risk_analysis/priority/hazard_chem/iarc.html によれば、IARCは、主に、人に対する発がん性に関する様々な物質・要因を評価し、5段階に分類しています。IARCによる発がん性の分類は、人に対する発がん性があるかどうかの「根拠の強さ」を示す指標のひとつです。IARCによる発がん性の分類は、物質の発がん性の強さや暴露量に基づくリスクの大きさを示すものではないことや、他のリスク評価書の発がん性の有無に対する考察と異なる場合があることを覚えておくとよいです。有害化学物質としては、農薬の発がん性の評価において、グリホサートの発がん性評価(IARC Group 2A:probably carcinogenic to humans, Monograph GLYPHOSATE https://monographs.iarc.fr/wp-content/uploads/2018/06/mono112-10.pdf )が、最近話題となっています。
5|カドミウム / 毒性 / 慢性毒性 Q5. カドミウムの主要な慢性毒性は、腎近位尿細管障害である。【正・誤】
解説します。有害化学物質であるカドミウムの毒性を論点とした問題です。選択肢5(問101-124-5)では、カドミウムの慢性毒性を問われました。上記、食品安全委員会の評価書 (2008)によれば、第61回 FAO/WHO合同食品添加物専門家会議(JECFA; 2003)の評価で、腎尿細管の機能障害は、カドミウムの毒性による重要な健康影響であることが再確認されました。日本では、鉱山を汚染源とするカドミウム汚染地域が数多く存在し、イタイイタイ病の発生を契機に、一般環境でのカドミウム曝露に関する疫学調査が数多く実施されました。上記、食品安全委員会の評価書(2008)では、カドミウムの長期低濃度曝露における食品健康影響評価には、因果関係が証明された腎臓での近位尿細管機能障害を指標とすることがもっとも適切であると判断され、耐容週間摂取量は、一般環境における長期低濃度曝露を重視し、日本におけるカドミウム摂取量が近位尿細管機能に及ぼす影響を調べた2つの疫学調査結果を主たる根拠として設定されました。すなわち、カドミウム汚染地域住民と非汚染地域住民を対象とした疫学調査結果から、ヒトの健康に悪影響を及ぼさないカドミウム摂取量として算出された量は 14.4μg/kg 体重/週以下であり、別の疫学調査結果から、非汚染地域の対照群と比較して7μg/kg体重/週前後のカドミウム曝露を受けた住民に過剰な近位尿細管機能障害が認められなかったことから、カドミウムの耐容週間摂取量は、7μg/kg 体重/週とされました。
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※再生リストから順番に連続してご覧いただくことができます。
1.
2. 再生リストからどうぞ。
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ポイント|
日本産米に含まれるカドミウム量は平均【A】ppm(1997 - 1998年 旧食糧庁の全国実態調査結果より)。日本人は【B】の摂取量が多いため、【B】摂取によるカドミウム曝露量の割合が【C】%(2005年)と【D】現状がある。
A. 0.06
B. 米
C. 46.5
D. 高い
カドミウムの成人腸管吸収率は、【E】%(ヒトボランティア実験における放射性同位元素の残存率)である。
E. 2 - 8
肝・腎細胞内でカドミウムは【F】に【G】結合しており、結合によってカドミウムの毒性は【H】される。
F. メタロチオネイン
G. 配位
H. 抑制
カドミウムは、1993年の【I】の発がん性分類で、ヒトにおいて発がん性があると判断するために【J】に分類された。
I. 国際がん研究機関(IARC)
J. 十分な証拠がある(Group 1:Carcinogenic to humans)
【K】の機能障害は、2003年の【L】における評価で、「カドミウムの毒性による重要な健康影響」であるとされた。日本におけるカドミウムの長期低濃度曝露での食品健康影響評価には、因果関係が証明されている【M】での【N】障害を指標とすることがもっとも適切であると判断され、カドミウム摂取量が【N】に及ぼす影響を調べた2つの疫学調査結果を主たる根拠として【O】は、【P】と設定された。
K. 腎尿細管
L. FAO/WHO合同食品添加物専門家会議(JECFA)
M. 腎臓
N. 近位尿細管機能
O. 耐容週間摂取量
P. 7μg/kg 体重/週
参考資料|
厚生労働省|「食品に含まれるカドミウム」に関するQ&A
食品安全委員会|リスク評価結果の解説 「食品からのカドミウム摂取の現状に係る安全性確保について」に係る食品健康影響評価の通知文書および評価書[PDF] (2008)
IARC|ヒトにおいて発がん性があると判断するために十分な証拠があるという判定(グループ 1:IARC MONOGRAPHS ON THE EVALUATION OF CARCINOGENIC RISKS TO HUMANS Volume 58 (1993) Beryllium, Cadmium, Mercury, and Exposures in the Glass Manufacturing Industry http://monographs.iarc.fr/ENG/Monographs/vol58/index.php)
では、もう一度、問98-133を解いてみてください。すっきり、はっきりわかれば、合格です!
第98回薬剤師国家試験|薬学理論問題 / 問133 Q. カドミウムに関する記述のうち、正しいのはどれか。
1. 現在、我が国で収穫された米からカドミウムは検出されなくなっている。
2. ヒトにおけるカドミウムの消化管吸収率は、およそ90%である。
3. 体内に吸収されたカドミウムは、メタロチオネインと結合することにより毒性が高まる。 4. カドミウムは、国際がん研究機関(IARC)において、ヒトに対する発がん性がある化学物質に分類されている。
5. カドミウムの主要な慢性毒性は、腎近位尿細管障害である。
(論点:有害化学物質 / カドミウム)
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更新日:2019.07.26制作:滝沢幸穂(Yukiho.Takizawa)phD ■Facebook プロフィール https://www.facebook.com/Yukiho.Takizawa
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