2019/07/02 23:39

第97回薬剤師国家試験|薬学理論問題 / 問121 Q.栄養素の消化・吸収に関する記述のうち、正しいのはどれか。
1. 糖質の膜消化では、単糖と二糖が生じる。
2. ラクトースを構成する2種の単糖の吸収は、同じトランスポーターによって行われる。
3. カルシウムの吸収は、フィチン酸によって促進される。
4. ヘム鉄の吸収は、ビタミンCによって促進される。
5. 中鎖脂肪酸の吸収は、胆汁酸を必要としない。
(論点:栄養素 / 消化・吸収)

松廼屋|論点解説 薬剤師国家試験対策ノート問97-121【衛生】論点:栄養素 / 消化・吸収

こんにちは!薬学生の皆さん。BLNtです。解説します。薬剤師国家試験の衛生から、栄養素 / 消化・吸収を論点とした問題です。第97回薬剤師国家試験【衛生】薬学理論問題問121(問97-121|論点:栄養素 / 消化・吸収)では、栄養素の消化・吸収についての概要を問われました。選択肢の記述の正誤を選ぶ薬学理論問題でした。

栄養素に関する最新の詳細な情報としては、厚生労働省ホームページの「日本人の食事摂取基準(2015年版)策定検討会」報告書 平成26年3月28日( http://www.mhlw.go.jp/stf/shingi/0000041824.html )に科学的かつ目的に合った情報が記載されていますので、一読することをお勧めします。問97-121は、設問の選択肢ごとに、栄養素のテーマ(炭水化物 / 糖、カルシウム、鉄、脂肪酸)が異なりますので、選択肢ごとに解説します。

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目次|

1|問97-121-1 論点:糖 / 膜消化
2|問97-121-2 論点:糖 / 吸収
3|問97-121-3 論点:カルシウム / 吸収
4|問97-121-4 論点:鉄 / 吸収
5|問97-121-5 論点:脂肪酸 / 吸収

1|論点:糖 / 膜消化 Q1. 糖質の膜消化では、単糖と二糖が生じる。【正・誤】


解説します。選択肢1(問97-121-1)では、糖の膜消化が問われました。「日本人の食事摂取基準(2015年版)策定検討会」報告書によれば、易消化性炭水化物は、消化管腔内で唾液及び膵液中のアミラーゼにより消化されて少糖類になり、少糖類は小腸上皮細胞の微絨毛膜のグルコアミラーゼスクラーゼ・イソマルターゼ複合体による膜消化を受け単糖類となり吸収されます。膜消化を受けた小糖類は単糖類となり吸収されますから、選択肢1の「糖質の膜消化では、単糖と二糖が生じる」という記述は誤りで、糖質の膜消化では単糖類が生じます。

なお、炭水化物を重合度によって分類すると、糖類(重合度が1又は2)、少糖類(重合度3~9)、多糖類(重合度10以上)に分類され、糖類はさらに、単糖類二糖類に分かれます。単糖類にはぶどう糖(グルコース)果糖ガラクトースがあり、二糖類にはしょ糖、乳糖、麦芽糖等があります。少糖類はマルトオリゴ糖(α-グルカン)と、グルコース以外の単糖類を含むオリゴ糖とに分かれます。この分類をイメージできると、より理解が深まります。

2|論点:糖 / 吸収 Q2. ラクトースを構成する2種の単糖の吸収は、同じトランスポーターによって行われる。【正・誤】

解説します。選択肢2(問97-121-2)の論点は、糖の吸収です。ラクトースを構成する2糖は、それぞれグルコースガラクトースです。

上記報告書によれば、グルコースとガラクトースはNa+/グルコース共輸送担体(SGLT1)を介して細胞内に取り込まれ、一方、フルクトースはフルクトース輸送担体(GLUT5)を介して細胞内に取り込まれます。そののち、両者ともに基底膜に存在するグルコース輸送担体(GLUT2)により血管側に移行することが記載されています。

したがって、選択肢2の「ラクトースを構成する2種の単糖の吸収は、同じトランスポーターによって行われる」との記述は正しいことになります。すなわち、ラクトースを構成する2糖が、それぞれグルコースとガラクトースであって、これらは、SGLT1によって細胞内に取り込まれ、GLUT2によって細胞内から血液へと移行するという過程を理解しているか問われた設問です。

3|論点:カルシウム / 吸収 Q3. カルシウムの吸収は、フィチン酸によって促進される。【正・誤】

解説します。選択肢3(問97-121-3)の論点は、カルシウムの吸収です。上記報告書によれば、カルシウムは主に小腸上部能動輸送により吸収されます。その吸収率は比較的低く、成人では25%-30%程度です。カルシウムの吸収は年齢や妊娠・授乳、その他の食品成分など様々な要因により影響を受けます。ビタミンDはカルシウム吸収を促進します。また、吸収されたカルシウムは骨への蓄積、腎臓を通しての尿中排泄の経路によって調節されていますから、カルシウムの栄養状態を考える際には、摂取量、腸管からの吸収率、骨代謝(骨吸収と骨形成のバランス)、尿中排泄などを考慮する必要があります。

選択肢3の記述「カルシウムの吸収は、フィチン酸によって促進される」に関しては、カルシウム製剤の医療用医薬品添付文書の情報および上記報告書の記載から、カルシウムの吸収を促進する化合物としては、ビタミンDがあげられており、フィチン酸に関する記載および情報は得られないことから、この記述は誤りであると推察されます。なお、フィチン酸は食物に含まれる化合物で、カルシウムの吸収に食事の影響があるとすれば、関連する可能性がありますが、科学的知見としてフィチン酸がカルシウムの吸収に与える影響は、公定書の性質を持つ文献には見当たりませんでした。科学的根拠から記述の正誤を問うとすれば、記述が誤っているためには、「カルシウムの吸収は、フィチン酸によって促進されない。(または、影響されない。または、抑制される。)」という論文が必要です。薬剤師国家試験の記述問題では、「正答である可能性がより高い選択肢を選ぶ」ことが期待される傾向がありますが、国家資格の適合性を審査する試験である性質からは、科学的根拠に基づくクリアカットな判断を求める記述が望ましいと考えられます。気づきがカイゼンにつながります。

4|論点:鉄 / 吸収 Q4. ヘム鉄の吸収は、ビタミンCによって促進される。【正・誤】

解説します。選択肢4(問97-121-4)は、鉄の吸収に関する記述の正誤を問う問題です。上記報告書によれば、たんぱく質、アミノ酸、アスコルビン酸(ビタミンC)は鉄の吸収を促進し、他方、フィチン酸、タンニン、シュウ酸は鉄の吸収を抑制します。ビタミンC(アスコルビン酸)は還元性があります。鉄はFe3+ではほとんど吸収されず、アスコルビン酸によりFe2+に還元されることで吸収が促進されます。

ただし、記述で問われたのは「ヘム鉄」の吸収です。ヘム鉄はそのままの形で特異的な担体によって腸管上皮細胞へと吸収され、細胞内でヘムオキシゲナーゼにより2価鉄イオン(Fe2+)とポルフィリンに分解されます。ヘム鉄はそのままの形で特異な担体によって吸収されることから、アスコルビン酸の影響は受けにくいと推察されます。よって、選択肢4の記述「ヘム鉄の吸収は、ビタミンCによって促進される」は、誤りであると考えられます。

5|論点:脂肪酸 / 吸収 Q5. 中鎖脂肪酸の吸収は、胆汁酸を必要としない。【正・誤】

解説します。選択肢5(問97-121-5)では、脂肪酸の吸収のうち、中鎖脂肪酸(炭素数5 - 12個)の吸収について問われました。上記報告書によれば、摂取した食品中の脂質の主成分は、トリアシルグリセロールです。トリアシルグリセロールは膵リパーゼと胃底腺リパーゼにより消化されます。トリアシルグリセロールから生成された脂肪酸と2-モノアシルグリセロールは、胆汁酸と混合されてミセルを形成して可溶化され、このミセルには、脂肪酸、2-モノアシルグリセロール、リン脂質、コレステロール等が取り込まれます。小腸上皮細胞の表面に到達したミセルから、脂肪酸等が細胞に移行します。

長鎖脂肪酸は胆汁によってミセル化されて可溶化してから吸収されますが、その一方で、中鎖脂肪酸はミセル化されなくても吸収されて門脈に流入します。J-Stage|青山敏明, 総合論文 中鎖脂肪酸の栄養学的研究, オレオサイエンス, 3(8), 403-410, 2003 https://doi.org/10.5650/oleoscience.3.403 によれば、中鎖脂肪酸は、 長鎖脂肪酸と消化吸収性が大きく異なり、肝臓に直接運ばれ 素早く酸化されてエネルギー源となります。この結果、食後の熱産生が高く 食後の血中トリグリセリド濃度が上昇しません。また、中鎖脂肪酸は通常の条件で安全と確認されています。中鎖脂肪酸トリアシルグリセロール(MCT)は、舌リパーゼ、胃リパーゼ及び胃酸での分解を受け、ほとんどはグリセリンと3つの中鎖脂肪酸に分解されます。これは、中鎖脂肪酸が水に親和性が高く、加水分解されやすいためと推測されており、このため、十二指腸に到達したときに、すでにほとんどが中鎖脂肪酸の遊離脂肪酸として存在することから、膵リパーゼによる分解を必要としません。また、中鎖脂肪酸は水と親和性が高いことから、胆汁酸とミセルを形成することなく吸収されて、門脈を通過して肝臓に直接運ばれます。したがって、選択肢5「中鎖脂肪酸の吸収は、胆汁酸を必要としない」との記述は、正しいと考えられます。

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問97-121は、5種類の栄養素に関して、複雑な消化・吸収機構が問われました。1問2.5分以内で正誤を判断するにはボリュームがある問題でした。お疲れさまでした。

ポイント|

易消化性炭水化物は、消化管腔内で唾液及び膵液中の【A】により消化されて少糖類になり、少糖類は小腸上皮細胞【B】膜の【C】と【D】複合体による膜消化を受け【E】となり吸収される。

A. アミラーゼ
B. 微絨毛
C. グルコアミラーゼ
D. スクラーゼ・イソマルターゼ
E. 単糖類

ラクトースを構成する2糖は、【F】と【G】である。【F】と【G】はNa+/【F】共輸送担体(【H】)を介して、一方、【I】は【I】輸送担体(【J】)を介して細胞内に取り込まれ、そののち、両者ともに【K】に存在する【F】輸送担体(【L】)により血管側に移行する。

F. グルコース
G. ガラクトース
H. SGLT1
I. フルクトース
J. GLUT5
K. 基底膜
L. GLUT2

鉄は【M】ではほとんど吸収されず、【N】により【O】に還元されることで吸収が【P】される。それに対して、ヘム鉄はそのままの形で【Q】によって吸収される。【R】はカルシウム吸収を促進する。

M. Fe3+
N. アスコルビン酸
O. Fe2+
P. 促進
Q. 特異な担体
R. ビタミンD

トリアシルグリセロールから生成された【S】と【T】は、胆汁酸と混合されて【U】を形成し可溶化されてから吸収されるが、【V】はミセル化されなくても吸収されて【W】に流入する。

S. 脂肪酸
T. 2-モノアシルグリセロール
U. ミセル
V. 中鎖脂肪酸
W. 門脈

では、もう一度、問97-121を解いてみてください。すっきり、はっきりわかれば、合格です!
第97回薬剤師国家試験|薬学理論問題 / 問121 Q. 栄養素の消化・吸収に関する記述のうち、正しいのはどれか。
1. 糖質の膜消化では、単糖と二糖が生じる。
2. ラクトースを構成する2種の単糖の吸収は、同じトランスポーターによって行われる。
3. カルシウムの吸収は、フィチン酸によって促進される。
4. ヘム鉄の吸収は、ビタミンCによって促進される。
5. 中鎖脂肪酸の吸収は、胆汁酸を必要としない。
(論点:栄養素 / 消化・吸収)

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更新日:2019.07.01 制作:滝沢幸穂(Yukiho.Takizawa)phD ■Facebook プロフィール https://www.facebook.com/Yukiho.Takizawa

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