2018/09/13 18:00
第99回薬剤師国家試験|薬学理論問題 / 問124 Q. 油脂の変質試験法に関する記述のうち、正しいのはどれか。
試験操作|試料油脂約 1g を共栓つき三角フラスコに精密に量りとり、酢酸・クロロホルム(3:2)混液 25mLに溶かす。フラスコ内の空気を窒素ガスで置換し、飽和ヨウ化カリウム溶液 1mLを加えてよく振り混ぜる。暗所で 10分間放置後、水 30mLを加えてよく振り混ぜ、デンプン試液を指示薬として、0.01mol/Lのチオ硫酸ナトリウム溶液で滴定する。
選択肢
1. 滴定の終点では溶液が淡黄色から青紫色に変化する。
2. 主に油脂中のアルデヒド類が反応する。
3. 指標の値は、油脂 1kg あたりで表す。
4. 指標の値は、変質の進行に伴い減少する。
5. 指標の値は、変質の進行に伴い初めは増加するが、その後減少する。
(論点:油脂の変質試験法)
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松廼屋|論点解説 薬剤師国家試験対策ノート問99-124【衛生】論点:油脂の変質試験法 過酸化物価
こんにちは!薬学生の皆さん。BLNtです。解説します。薬剤師国家試験の衛生から油脂の変質試験法を論点とした問題です。第99回薬剤師国家試験の問124(問99-124)は、冒頭に何かの試験法が詳細に記載されていますね。でも、ここで焦ってはいけません。この設問へのアプローチとしては、「油脂の品質試験について知っている?」と聞かれていると考えます。Q. 油脂の変質試験法に関する記述のうち、正しいのはどれか。
油脂の試験法に関する記述の正誤を問う問題です。特に油脂の劣化の指標として一部の食品に規格基準が定められている酸価・過酸化物価に関する理解が問われました。選択肢の記述の特徴から前半(選択肢1 - 3)と後半(選択肢4 - 5)の2つのテーマに分けて解説します。
テーマ1. 酸価および過酸化物価の定義と試験法の概要|
油脂の品質評価指標としての酸価および過酸化物価の定義と試験法の概要を把握しましょう。最新の科学的根拠が記載された参考資料としては、厚生労働省のホームページ(HP)「厚生労働省|薬事・食品衛生審議会食品衛生分科会食品規格部会資料(平成22年7月29日開催) https://www.mhlw.go.jp/stf/shingi/2r9852000000ip55.html 資料2 即席めん類の酸価・過酸化物価試験法について(案)PDF https://www.mhlw.go.jp/stf2/shingi2/2r9852000000ip55-att/2r9852000000ipot.pdf および 参考資料8 酸価・過酸化物価に関する規定等(PDF)https://www.mhlw.go.jp/stf2/shingi2/2r9852000000ip55-att/2r9852000000ipvm.pdf 」ならびに、「厚生労働省|2010年7月29日 薬事・食品衛生審議会食品衛生分科会食品規格部会議事録 https://www.mhlw.go.jp/stf/shingi/2r9852000000nghx.html 」に情報がわかり易く整理してありました。詳細は、上記、厚生労働省HPをご参照ください。上記HPの資料2「背景」によれば、酸価および過酸化物価は、食品に含まれる油脂の変敗による衛生上の危害発生の防止の観点から、油脂の劣化の指標として用いられます。酸価は、油脂の古さ、使用歴等を示す指標であり、「油脂 1 g 中に含まれる遊離脂肪酸を中和するのに必要な水酸化カリウム量の mg 数(mg / g)」として表されます。また、過酸化物価は、油脂の酸化変質の過程で生成する過酸化物の量を示す指標であり、「油脂 1 kg中の過酸化物によりヨウ化カリウムから遊離されるヨウ素量の mg数(meq / kg)」として表されます。油脂中の過酸化物は、ヨウ化カリウムと反応した結果、ヨウ素を遊離します。遊離したヨウ素を、チオ硫酸ナトリウム溶液で滴定して、過酸化物価(meq / kg)を求めます。過酸化物価は、油脂中の過酸化物(ヒドロペルオキシド|L-OOH)の生成量の指標です(図1参照)。
L-OOH + KI → L-OH + I2 + K2O
ただし、LH:不飽和脂肪酸、L-OOH:脂質ヒドロペルオキシド
図1 油脂の過酸化物とヨウ化カリウムの反応
油脂の酸化変質、すなわち、過酸化物の生成およびそれに引き続き起こる二次生成物の生成は香り、臭気、色の変化および毒性発現など油脂の品質の劣化に関係します。食品、添加物等の規格基準(昭和34年厚生省告示第 370 号。以下「告示」)においては、即席めん類(めんを油脂で処理したものに限る。)の成分規格として「めんに含まれる油脂の酸価が3を超え、または過酸化物価が30を超えるものであってはならない」と規定されるとともに、酸価および過酸化物価の試験法(以下、告示試験法)がそれぞれ定められました。さらに「菓子指導要領」(昭和52年11月16日環食第248号)等においても、酸価および過酸化物価の基準が示されており、告示試験法が準用されました。上記、厚生労働省HPの審議の議事録によれば、2010年7月29日の審議では、現行の告示試験法は、有害試薬である精製エーテルおよびクロロホルムを使用するものであることから、これら試薬の使用を低減または石油エーテルおよびイソオクタンで代替した改良試験法とするため、現行の試験法を告示から削除し、改良試験法を通知により示すことが適当であるとされました。
酸価および過酸化物価の試験法は、次のとおりです。
酸価の測定法(概略)|
試料に中性溶剤を加えて溶かし、数滴のフェノールフタレイン試液を指示薬として、30 秒間持続する淡紅色を呈するまで(油脂の遊離脂肪酸を)0.1 mol/Lエタノール製水酸化カリウム溶液で滴定した後、式(1)により、酸価を求める。
酸価 =5.611×A×F / S …式(1)
A: 0.1 mol/L エタノール製水酸化カリウム溶液の量(mL)
F: 0.1 mol/L エタノール製水酸化カリウム溶液の力価
S: 油脂試料量(g)
過酸化物価の測定法(概略)|
油脂の過酸化物がヨウ化カリウムと反応して遊離したヨウ素を、デンプン試液を指示薬として、0.01mol/Lチオ硫酸ナトリウム溶液で滴定し、式(2)から過酸化物価を求める。
過酸化物価(meq / kg)=(a-b)×F×10 / S …式(2)
a:検体試験区の滴定に要した 0.01 mol/L チオ硫酸ナトリウム溶液の量(mL)
b:ブランク試験区の滴定に要した 0.01 mol/L チオ硫酸ナトリウム溶液の量(mL)
F:0.01 mol/L チオ硫酸ナトリウムの力価
S: 油脂試料量(g)
改良試験法の最新の詳細な記載は、平成23年3月28日付け食安発0328第1号厚生労働省医薬食品局食品安全部長通知「食品、添加物等の規格基準の一部を改正する件について https://www.mhlw.go.jp/topics/bukyoku/iyaku/syoku-anzen/zanryu2/dl/110328-1.pdf 」の別添2にあります。これが試験法の原本に相当します。試験法全てを覚える必要はありませんが、原本を一読して、滴定の種類や原理は覚えておくとよいです。通知の別添2「4.過酸化物価の測定法」によれば、終点に関しては、「滴定は十分に攪拌しながら行い、デンプンによる青色の消失時を終点とする。」との記載があります。一方、「3.酸価の測定法」には、「数滴のフェノールフタレイン試液を指示薬として加え、30秒間持続する淡紅色を呈するまで 0.1 mol/L エタノール製水酸化カリウム溶液で滴定する。」との記載があります。以上から、酸価の終点は、フェノールフタレイン試液を指示薬として30秒間持続する淡紅色を呈する時点、他方、過酸化物価の終点は、デンプン溶液を指示薬としてデンプンによる青色の消失時であることがわかります。併せて覚えておくとよいです。なお、過酸化物価の試験法における滴定の終点に関しては、日本薬局方第17改正の医薬品各条「ベンジルアルコール」に、滴定の終点は、「液が淡黄色に変わるとき」であって、「デンプン試液5mLを加え、生じた青色が脱色するとき」とされています。以上の酸価および過酸化物価の試験法の理解から、選択肢にアプローチしてみます。
選択肢1. 滴定の終点では溶液が淡黄色から青紫色に変化する【正/誤】|解説1) 過酸化物価の試験法においては、滴定の終点は、デンプンによる青色が消失するときで、終点での液は淡黄色です。
選択肢2. 主に油脂中のアルデヒド類が反応する【正/誤】|解説2) 試験法の記述から、過酸化物価の試験法であることがわかりますから、KIと反応するのは、LH(不飽和脂質)から生成した過酸化物L-OOH(脂質ヒドロペルオキシド)です(図1)。
選択肢3. 指標の値は、油脂 1kg あたりで表す【正/誤】|解説3) 過酸化物価の定義は、「遊離されるヨウ素を、油脂試料1kgに対するミリ当量数(meq / kg)で表したもの」です。
テーマ2. 油脂の保存過程での過酸化物価の経日推移|
選択肢4.および5.では、脂質の変質に伴い過酸化物価がどのような変動を示すか問われました。科学文献のデータを参考に、解説します。J-Stage|岩尾ら, 市販油脂食品の変敗について調理科学, 9(1), 42-48 (1976) https://doi.org/10.11402/cookeryscience1968.9.1_42 によれば、(過酸化物価は脂質ヒドロペルオキシドの生成量を反映するので、)さらに変敗が進むと脂質ヒドロペルオキシドが分解されて2次生成物が生成し、過酸化物の減少に伴って過酸化物価は低い値になるという意味の記載があります。その一方、油脂の過酸化物価が測定された結果が第1図に記載されていますが、実験結果から、ゴマ油、大豆油、オリーブ油、菜種油、サフラワー油、綿実油、米ぬか油の過酸化物価の経日推移のグラフを見ると、180日間の観察結果の中では経日的に増加し続けており、過酸化物価が減少に転じる結果は認められませんでした。さらに、第5図にはポテトチップス、第6図にはバターピーナッツの過酸化物価の経日推移が示されていますが、両者とも90日間の保存の間、過酸化物価は増加傾向を示しました。また、J-Stage|塩澤ら, 食用油脂の品質にかかわる指標としての過酸化物価の再評価, 食品衛生学雑誌, 48(3), 51-57 (2007) https://doi.org/10.3358/shokueishi.48.51 Fig. 1.を参考とすると、酸価、過酸化物価およびカルボニル価の経日推移を、パーム油、ラード、および大豆油で観察したデータから、どの指標に関しても経日的に増加傾向を示したことがわかります。ただし、大豆油の過酸化物価の推移を50℃の保存条件で見た結果では、保存64日目の測定値の後の80日目の測定値で過酸化物価は減少傾向を示しました。以上の実測値を参考に、油脂の過酸化物価の経日推移の傾向を考察すると、原理として、過酸化物が分解すれば、最終的には過酸化物価は減少に転じる可能性が推察されるものの、現実的には、食用油や油を含有する加工品で実測された過酸化物価の経日推移を見る限り、数か月の観察期間では増加のみが観察されるものと考えられます。これは、過酸化物の量と、その原材料である油脂の量との比率から予測すれば明らかなことですが、保存安定性を観察する条件下では、油脂がすべて過酸化物になることは、数か月間の保存ではありえない現象なので、過酸化物の供給源としてはるかに多い量の油脂がそこにある限りは、特殊な条件ではない限り、過酸化物の分解による減少よりも、過酸化物の生成による供給が量的に(反応速度論的に)圧倒的に多く、過酸化物価の増加傾向が継続する反応速度論的なスペキュレーションが実測結果からの可能性として示唆されます。以上の過酸化物価の経日的な試験結果を理解して、選択肢にアプローチします。
選択肢4. 指標の値は、変質の進行に伴い減少する【正/誤】|選択肢5. 指標の値は、変質の進行に伴い初めは増加するが、その後減少する【正/誤】|
選択肢の記述で指標と呼ばれているものが、試験法の理解から過酸化物価であると判断できれば、変質の進行に伴い過酸化物価は増加することが理解できます。その後減少することは、反応論的に仮定されますが、過酸化物価とは、試験によって得られる計測値として定義される指標であるため、データとして観察された結果以外で、論理的な仮定として語ることは適切ではないように思われます。第99回薬剤師国家試験の問124(問99-124)では、選択肢5が正答とされました。科学的な(薬学生・薬剤師・薬学を履修した科学者の薬学的考察による)見方、考え方としては、過酸化物からの2次生成物が、品質の劣化ならびに毒性に寄与する可能性があるため、過酸化物価のみではなく、2次生成物を反映する他の指標による評価もまた同時に行うことが、油脂の劣化を過小評価することなく、より正しく反映するのではないかという視点を持つことが適格であると思われます。詳細には、試験法の記載がクロロホルム等有害試薬使用の旧告示試験法(削除された試験法)であったり、指標の経時変化とファクトベースの実測が一致しないなど、気づきますが、油脂の品質指標の理解を課題とした興味深い過去問題でした。上記科学文献から、油脂の過酸化物価の経日推移のデータを抜粋して図2および図3に示します。詳細は、記載の参考文献を実際に確認してください。
図2 保存条件別過酸化物価の経時的変化 出典:J-Stage|岩尾ら, 市販油脂食品の変敗について調理科学, 9(1), 42-48 (1976) https://doi.org/10.11402/cookeryscience1968.9.1_42
図3 3種類の保存条件下における酸価(AV)、過酸化物価(PV)およびカルボニル価(CV)の変化 出典:J-Stage|塩澤ら, 食用油脂の品質にかかわる指標としての過酸化物価の再評価, 食品衛生学雑誌, 48(3), 51-57 (2007) https://doi.org/10.3358/shokueishi.48.51 Fig. 1.抜粋
なお、一般財団法人 食品分析開発センター|メールマガジンバックナンバー(2013年11月発行 vol.092)https://ssl.mac.or.jp/mailmagazine/backnumber/detail/201311.htm 2. 油脂および油脂食品の劣化度測定法 http://www.mac.or.jp/mail/131101/02.shtml に、油脂の様々な指標の測定法について掲載されていました。より深い学習には、このコンテンツもおすすめします。
ポイント|
【A】・【B】は、食品に含まれる【C】の【D】による【E】の観点から、【C】の【F】として用いられる。【A】は、【C】の【G】であり、「【C】1 g中に含まれる【H】を中和するのに必要な【I】量の mg数(mg / g)」として表される。また、【B】は、【C】の【J】の過程で生成する【K】であり、「【C】1kg 中の【L】により【M】から遊離される【N】量の mg数(meq / kg)」として表される。
【A】の試験の終点は、【O】を指示薬として加え、30秒間持続する【P】時点、他方、【B】の試験の終点は、【Q】を指示薬として【R】により滴定し、【S】する時である。
A. 酸価
B. 過酸化物価
C. 油脂
D. 変敗
E. 衛生上の危害発生の防止
F. 劣化の指標
G. 古さ、使用歴等を示す指標
H. 遊離脂肪酸
I. 水酸化カリウム(KOH)
J. 酸化変質
K. 過酸化物の量を示す指標
L. 過酸化物
M. ヨウ化カリウム(KI)
N. ヨウ素
O. フェノールフタレイン試液
P. 淡紅色を呈する
Q. デンプン溶液
R. 0.01 mol/Lチオ硫酸ナトリウム溶液
S. デンプンによる青色の消失
では、問題を解いてみましょう!すっきり、はっきりわかったら、合格です。
第99回薬剤師国家試験|薬学理論問題 / 問124 Q. 油脂の変質試験法に関する記述のうち、正しいのはどれか。
試験操作|試料油脂約 1g を共栓つき三角フラスコに精密に量りとり、酢酸・クロロホルム(3:2)混液 25mLに溶かす。フラスコ内の空気を窒素ガスで置換し、飽和ヨウ化カリウム溶液 1mLを加えてよく振り混ぜる。暗所で 10分間放置後、水 30mLを加えてよく振り混ぜ、デンプン試液を指示薬として、0.01mol/Lのチオ硫酸ナトリウム溶液で滴定する。
選択肢
1. 滴定の終点では溶液が淡黄色から青紫色に変化する。
2. 主に油脂中のアルデヒド類が反応する。
3. 指標の値は、油脂 1kg あたりで表す。
4. 指標の値は、変質の進行に伴い減少する。
5. 指標の値は、変質の進行に伴い初めは増加するが、その後減少する。
(論点:油脂の変質試験法)
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以上。BLNtより。
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